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マイケル・アリアス監督『鉄コン筋クリート』〜07年元旦幸先のいい名作との遭遇

枯れた花や、汚れて節くれ立った手だからこそ持つ味わいがある。 松本大洋の名作『鉄コン筋クリート』がもつ魅力とはその類のものだ。カサカサに乾ききった街で繰り広げられる暴力と悪意の衝突、それと垂直に交差するストリートチルドレン2人の純粋でタフな…

『木更津キャッツアイ 日本シリーズ』〜ドンブラコ映画のダイナミズム

唸った。シリアスな場面のひっくり返し方が、あまりに斬新だったから。何がって?クドカンの脚本のこと。 岡田准一演じるブッサンが、ユンソナ演じる韓国人ホステスに告白する場面。唐突に韓国語で結婚を申し込むブッサンに対して、ユンソナも思わず韓国語で…

溝口健二『山椒大夫』〜日本のヴィスコンティか!?

NHK−BSの溝口週間中に録りためていたビデオの中から、『山椒大夫』を見た。グッとはこなかったけど、モノクロの陰影を、成瀬巳喜男とは違った意味でうまく使う監督さんだと思う。あとは、二人が対話する場面で一人には背中を向けさせて、観客がその表情や思…

宮崎吾郎『ゲド戦記』〜少々小ぶりで、リアリティに欠ける

先日まで修行かつ取材していた牧場から、19歳の男の子が上京。うちに泊まってもらい、六本木ヒルズ見物と映画鑑賞。彼がアニメ好きなので、毀誉褒貶の『ゲド戦記』を観る。かなり時期外れなんだけどさ。ニ―トや引きこもりの増加を踏まえた主人公設定(心の…

西川美和監督『ゆれる』〜水と人の感情をシンクロさせる名作の誕生

「水」の使い方がうまい。 ステンレス製の流し台にゆったりと広がる水の場面から、映画は始まる。女性の溺死を暗示する川の激流。ガソリンスタンドで働く兄がキレて捨てたホースが、噴き出す水の勢いだけでくねくねと曲がる無音の画面。何度も表れる吊り橋の…

ドキュメンタリー『アンリ・カルティエ・ブレッソン〜瞬間の記憶』

そうか、ブレッソン翁は、少年時代からパリの美術館に通っては好きな絵画を模写する子どもだったのか。彼のスナップのあの美しい構図は、当時から培われたものなんだ。 「写真は短刀のひと刺し、絵画は瞑想」 と話す彼は、老境の今はカメラではなく、もっぱ…

ジャン=フランソワ・フリオ『大いなる休暇』〜遠い島の話が私たちの社会とダブる理由

とても映画らしい映画を観た。カレー屋「えすと」の井上さんから送ってもらったDVDだ。カナダのケベック州にある過疎の島に工場誘致話が持ち上がる。かつて漁業で栄えた島はもはや廃(すた)れ、大半の住民が失業保険で生計を立てている惨状だったからだ…

石川寛『好きだ、』〜言葉を削ると、人はそれを探そうとする

ありふれた言葉で、観る者の心をどれだけグッと突きさせるか。いい映画やいい本の着地点はそこだ。 だから、『好きだ、』は、最近なら『エターナル・サンシャイン』以来の、いい映画だった。05年のニューモントリオール映画祭で、最優秀監督賞を受賞したの…

『かもめ食堂』へのオマージュ(敬意)

きれいな余白 だれもいないプールで 彼女はひとりすいすいとすすむ とりたてて速いわけでも かっこいいというわけでもない平泳ぎで ひととじぶんをくらべることなく ただただ前にすすむすがたが とてもきわだっている ヘルシンキのきゃくのいない店のなかで …

『ブロークバック・マウンテン』〜導入の約1分間と音楽は良かった

暗がりの大平原をヘッドライトを照らしながらいくトラックの遠景。その静かな映像に、爪弾かれるギターの音色がかぶる―ちょっとヴェンダースの『パリ、テキサス』風な導入部は好きだった。でも、この場面も割とあっさり終わり、まず最初の「膝カックン」だっ…

遅まきながら『ディープ・ブルー』に呑み込まれた夜

レンタルしてきたドキュメンタリー映画『ディープ・ブルー』を夫婦で、ダイニングの明かりを消して観た。英国BBC放送製作だ。以前、ぼくは映画館で同放送製作の『WATARIDORI』を見ているが、それ以上に面白かった。 シャチが浜辺まで乗り上げて…

三谷幸喜監督作品『THE有頂天ホテル』〜名演の落語のような作品

普段は偉そうな殿様の小心者さやお間抜けぶりを、あるいは、持ちなれぬ大金が転がり込んで我を忘れる貧乏人やら。ただ、他人を笑い飛ばすだけでなくて、笑いながらも懐深く抱きしめる。人の業(ごう)を肯定する。それが名演の、いい落語だ。 三谷幸喜監督作…

北野武『TAKESHIS’』〜映画で「自分」を殺さずにはいられない映画監督

先日、生け花の「型(かた)」について書いた。昔、生け花を少しかじってみて痛感したのは、その型を壊すことの難しさだ。2本の枝とひとつの花をこの角度で入れれば、誰がやってもカッコよく見える。それが型だ。文章でいえば文法か。 だが、しばらくやって…

行定勲監督『春の雪』〜李屏賓(リー・ピンビン)の映像に心惹かれた

「ああ〜あ、あ〜ああ、ああ〜あ、あ〜ああ、ああああああ・・・」 そんなサビの、宇多田ヒカルのエンディング曲について、賛否両論あるようだけど、ぼくはこの悲恋物語をきちんと受け止めていてイイと思う。映画以上に、堕ちていく男と女の不条理劇を、歌詞…

成瀬巳喜男特集への興味〜だらだらした男女の軌跡を「映画」にする方法

今夜、NHK−BS2で、成瀬巳喜男特集を放送していた。どうやら、今年が成瀬の生誕100周年にあたるという。明日5日から、NHK−BSで成瀬作品24本が放送される。っていっても、一本も観たことがないんだよなぁ。 番組のゲストの一人、行定勲監督が…

ボブ・ジラルディ監督『ディナー・ラッシュ』〜人間のあらゆる欲房を「レストランの一夜」に詰めこんでみせた手腕、でもボクが恥ずかしい理由

ディナーラッシュ ~スペシャル・エディション~ [DVD]出版社/メーカー: ハピネット・ピクチャーズ発売日: 2004/07/10メディア: DVD購入: 1人 クリック: 174回この商品を含むブログ (52件) を見る よく考えれば、おしゃれなレストランほどいかがわしい場所はな…

『シーズ・ソー・ラヴリー』〜故ジョン・カサベテスの秀逸な脚本と、主演ショーン・ペンの圧倒的存在感

今みたいな時代に、純愛をテーマにどんな映画や小説が描けるのか。その問いかけに、1997年製作の『シーズ・ソー・ラヴリー【字幕版】 [VHS]』は、ひとつの秀逸な回答を見せている。 チンピラ・カップルの無軌道なラブ・ストーリー、しかも男(ショーン・…

宮藤官九郎監督『真夜中の弥次さん喜多さん』〜解釈は1日にしてならずの巻

弥次喜多 in DEEP 廉価版 (1) (ビームコミックス)作者: しりあがり寿出版社/メーカー: エンターブレイン発売日: 2005/03/25メディア: コミック購入: 1人 クリック: 19回この商品を含むブログ (69件) を見る「1000円でよかった」 昨日の映画の日、新宿歌…

渋谷シネマライズ「ライトニング・イン・ア・ボトル」〜「行間」をこそ聞かせるブルース音楽生誕100周年記念ライブ

ちょっとした自慢話がある。1990年、3ヶ月ほどニューヨークで暮らしていたときのこと。B.Bキングとマイルス・デイビスという奇跡的なジョイントライブが、リンカーンセンターで行われた。そのライブ情報を知ったのは、ライブ4日前。 チケットはもうな…

『エターナル・サンシャイン』〜C・カウフマン魔術(マジック)を堪能

好きだなぁ、おれはチャーリー・カウフマンの脚本が。『マルコビッチの穴』『ヒューマンネイチュア』もいいけど、今回のが一番気に入った。なぜなら、物哀しさと温かみのバランスが良くて、抑制のきいた21世紀の正統派ラブストーリーに仕上がっているから。 …

ふたたび『オペラ座の怪人』〜音楽の美か、恋人への愛か

取材終了後、ふたたび六本木ヒルズで映画『オペラ座の怪人』を鑑賞。今回は奥さんと彼女の学生時代からの友人Mさんの3人で観た。今月10日(id:rosa41:20050310)の日誌でも、簡単なあらすじは書いているので、今回は踏み込んで書く。まだ映画を観ていない…

「オペラ座の怪人」〜「もう1回観たい!」と「オペ怪」ファンのおれは叫んでいた

小説でもCDでも映画でも舞台でも、ぼくはいつも身も心もたぶらかされたいと思って読み、聴き、観る。どうか気持ちよく心酔わしてくれるものであってほしい。そう思うけれど、実際にその期待を満たしてくれるものは、残念ながらそれほど多くない。 この映画は…

『オペラ座の怪人』〜友人INAからのメール

先日、和久傳の「西湖」持参で上京した友人から、メールがとどいた。『オペラ座の怪人』と、京都・大丸近くに出店したフィレンツェ発のレストラン情報なので紹介します。 ぼくもとりあえず映画の方は行ってみようかと。なお、友人INAの感想にだまされたぞ!…

崔洋一監督『血と骨』〜「戦後民主主義」を蹴飛ばしつづけた男

カップルやファミリー映画全盛の今、男一人が映画館の暗闇で肩で風切るような気持ちと姿勢で観られる映画が少ない。自分がいかに泣いたか(感動したか)を、ど素人のオコチャマ・カップル(しかも男女ともにブサイクで庶民的)がニタニタしながら喧伝するよ…

宮崎駿監督『ハウルの動く城』を観る人たちの行列

映画の日だったので、夕方からの取材前に、奥さんと新宿で『ハウルの動く城』を観る。コマ劇場左隣のあの映画館があつまる場所で、上映約20分前で、この作品だけが唯一70、80mの行列が映画館の外にできていた。映画以上に、その行列にとても「今」を…

『L.A.コンフィデンシャル』カーティス・ハンソン監督

L.A.コンフィデンシャル [DVD]出版社/メーカー: 日本ヘラルド映画(PCH)発売日: 1999/01/20メディア: DVD購入: 2人 クリック: 59回この商品を含むブログ (101件) を見る 先日、400円だったので衝動買いした『L.A.コンフィデンシャル』を観た。安いっし…

スパイク・リー監督『25時』〜傷つき分裂するアメリカの痛ましき寓話

少し酔って帰ってくる途中、TUTAYAで以前から観たかった『25時』を借りた。物語に目新しさはない。ニューヨークに暮らすアイルランド移民の子供が、麻薬の売人になり、警察に逮捕される。刑務所で7年の懲役が決まり、入所するまでの1日を軸に、スクリーン…

『父、帰る』アンドレイ・ズビャギンツェフ監督〜にぶく光る斧(おの)のような質感

故・松田優作が愛したといわれるお好み焼きが大阪にある。○△□焼(まんだらやき)富沙屋本店(谷町6丁目)の豚モヤシせいろ蒸しだ。鉄板の上にモヤシ、豚肉の順番で重ねて蒸し焼きにして、ポン酢につけて食べる。いたってシンプルでうまい。それはお好み焼き…

『笑の大学』〜笑い笑われることで、人は惜しみなく自分を愛している

まがりなりにも、文章を書いて米や野菜を買うようになって痛感したことは、人を笑わせる文章は、泣かせる文章よりはるかに難しいということだ。さらに、人が真剣に怒っている姿で笑いを誘ったり、人が高らかに笑っている姿で、観る者を涙ぐませるとなると、…

マイケル・ムーア監督作品『華氏119』〜「情報がばらまかれる意図をこそ見抜け!」と男は叫んでる

かなり混んでいるという話で、友人Yが午前中に恵比寿ガーデンシネマで、4時40分からの上映の整理券1、2番をゲットしてくれた。だが出かけてみたら、230席の会場は多く見て4割ほどの入りだった。あれ・・・?混んでるのは、週末だけ?まっ、週末前の…