安田雪著『働きたいのに・・・高校生就職難の社会構造』

 仕事がらみで、取材前にインタヴューする著者の本を読むことが多い。もちろん、取材自体には有益なのだが、一人の読者として、読んで良かったと思う本は残念ながら少ない。そんな中、最近読んでみて面白かったのがこの本だ。(ASIN:4326652853
 著者はフィールドワークなどを基に、<若者=勤労意欲低下=フリーター亡国論>というステレオタイプな見方に異議を唱え、中高年のリストラによって、ホワイトカラーの子供たちの家庭の経済状況が悪化。私学進学が難しくなる一方で、企業側の雇用調整で新卒採用も抑制されていると指摘。
 つまり、本人以外の原因で、進学も就職もできない若者が急増しているという。そのため、「優秀な学力=優秀な学歴=一流企業へのパスポート」といった、かつての常識が崩壊しているのに、大半の中高年ホワイトカラーたちは、その新たな現実を直視せず、「フリーター=怠惰な若者=亡国の主要因」という見方に固執しているという。
 時折、テレビに登場する、「茶髪」・「アホそう」・「勤労意欲が低く」・「使えないヤツら」といったフリーター像を理路整然と否定している。彼らは実在するが、けっして定職をもたない若者の多数派ではないと。「テレビ映像にたぶらかされてはいけない」と僕も自戒させられた。若年失業が現在も、また将来的にも深刻なシステムの問題であることを知らしめる良書。著者は(有)社会ネットワーク研究所所長であり、東京大学特任教授でもある。彼女のネットワーク分析という手法には興味あり。

(追加)
 フリーター急増の影で、政府のやっている失業対策は以下の記事みたいなもの。一応取り組んでますというエクスキューズ政策。でも冷静に考えれば、税収や年金、国民健康保険を一番長く支払えるはずの若年労働者の失業問題こそが、もっとも喫緊の課題のはずなんだよね。その一方で中高年ホワイトカラーは「フリーター亡国論」を振り回して、いまどきの若いヤツらに対して、被害者意識だけをふくらませている。俺たちの年金はどうなるんだぁ!って。実にアベコベ&チグハグな現実がそこにある。
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20040324AT1F2300W23032004.html