永田農法で栽培されたトマト

rosa412004-04-01

 水曜日に届いた、永田農法で栽培されたトマトです。ユニクロを展開するファースト・リテーリングの、今月末で解散が決まった子会社が販売しているもの。最後になって、私が永田さんから最初にいただいたものに近い大きさのトマトが届きました。今までのはもっと小ぶりでしたから。
 線香花火の最後の最後にポタッと落ちる火の玉みたいなものでしょうか。この人間の握り拳みたいな、それにトマトの筋がうねっている感じが、おわかりいただけますか?
 長崎・五島列島の、痩せた土地に植えたトマトが妙に美味しくできたこと。肥沃な土地でしか美味しい野菜はできない、という従来の定説では説明できない”突然変異”を、永田さんが一人黙々と究めつづけたのです。
 そう、ノーベル賞田中光一さん同様、偶然の産物が永田農法の出発点でした。
 結果的には、それが南米ペルーのアンデス高地の痩せた土地で自生する、チレンセというトマトの野生種とそっくりだということを、彼は後日、何気なく開いた週刊誌のカラー写真で知るのです。それは実にドラマめいたひとつのトマトをめぐる物語です。
 約二年前、永田さん、そしてスーパー「オオゼキ」の会長さんらとトマト農家を巡った北海道での出来事が、急に思い出されます。
 永田さんのトマトは、栽培農家に極度の緊張を強いるのです。なぜなら従来の栽培方法と違い、水と肥料を与える時期をギリギリまで我慢しなければならないから。それが別名、スパルタ農法とか断食農法とよばれる理由です。
 その代わり、水分や栄養分を求めるトマトの本能が空気中や土中の、わずかな水分や養分さえ吸収しようと、土中には細くて長い根をのばし、トマトの表面には繊細な産毛がびっしりと生えてきます。その実をつける茎の部分に指で触れて、それを嗅ぐと濃厚なトマトの匂いが鼻をつくのです。
 しかし水や肥料を我慢しすぎると、トマトのお尻の部分が、まるでタバコの火をこすりつけたみたいに、大きく掘れてしまう。それを栽培農家の人たちは”尻やけ”と呼びます。商品として出荷はできませんが、農家にとって、ギリギリまでトマトと向き合ったという、誇らしき格闘の印でもあるのです。事実、私がお邪魔した栽培農家の方は、数ヶ月前に胃潰瘍で胃の三分の一を摘出したと話されていました。
「ずいぶん、凄まじい農法ですね」
 タクシーに乗り、その方のトマト畑を後にしながら、私がそうつぶやくと、隣に座る永田さんは私には目もくれず、前を見たまま、穏やかな声でこう言いました。
「いいえ、ちゃんと見ていれば、水と肥料をあたえる時期は、トマトが教えれくれますよ」
 常識を疑い、自分の感性を信じて、黙々と試行錯誤を繰り返した男の凄みを思い知らされて、一瞬言葉を失った日のことが、私にはとても鮮明に思い出されます。

追記)今日、永田トマトを夕食でいただきましたが、果肉は硬く、永田さんの畑でとれるものより酸味は足りないけれど、フルーツみたいな甘みがしっかりあって、とても美味しかったです。ああ、切ない。