松岡正剛千夜千冊:杉浦康平『かたち誕生』
あの松岡さんが、まるで少女みたいにワクワクしながら、「ぼく、大ファンです」オーラーを、その行間から振りまきながら、杉浦さんについて書いている。これも左アンテナにあります。こういう文章に出会うと、ネットのありがたみを体感するな。
杉浦さんとの出会い、そのときめきを、まるで先輩にラブレターを書く女子学生みたいな筆致でだ。それだけで、杉浦さんについて知りたくなってしまった。たとえば、松岡さんはこう書く。
杉浦康平は‥ぼくにとっては極上の師にあたる。とっておきの人であり、途方もなくかけがえのない人である。
むろんのこと、杉浦さんの‥授業を受けたわけではなく(ぼくが会う直前まで東京造形大学で教えていた)、杉浦アトリエに入ったわけでもないのだが(そのころは中垣信夫・辻修司などの歴戦の面々がいて、机は全部埋まっていた)、60年代が暮れてゆくなか、ぼくはこのまま自分の一人よがりのままで行くのはまずいなと思っていた。
どこかに入門したいと思っていたそのとき、杉浦康平という‥名がひらめいたのだ。たぶん大辻清司さんと喋っていたときだったと憶う。
この人の思索とデザインを、この人の目の動きと手の行く先を、この人の紙や本や印刷によせる思いを学びたい。それほど杉浦さんの仕事は、当時の誰の成果物よりもエキサイティングでラディカルな光を放っていた。
ねっ、ちょっとソソられるでしょう。でも、この杉浦さんを書いた文章はかなり長いから、ご注意下さい。
極上の師。いい響きの言葉だ。ぼくも欲しい。けど、こればっかりは、お金積んでどうにかなる類の話ではない。もちろん、積めるのはマンションのローンぐらいなんだけどさ。 仮に自分にとってそういう人が現れたとしても、その相手にとって、自分もそこそこ魅力的に映らないと、そんな師弟関係は到底結べない。つまるところ、地道に自分を高めることがその前提条件か。
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0981.html