森下篤史〜年商46億円の57歳社長は、それでも「練習」をやめない

rosa412004-06-02

 31日の朝、森下さんから電話がかかってきた。ぼくが彼のことを書いた「日経ベンチャー」の巻頭記事の掲載号が彼の元にも届いたらしい。以前、スチャラカでも書いたが、「荒川さんは優秀だけど二流だ」と、ぼくを一刀両断した人だ。
その顛末は以下をクリック。(id:rosa41:20040417)
 飲食店用の中古厨房機器のリサイクル業を中心に事業展開をはかる、テンポスバスターズの社長さんだ。
「森下さんに二流だといわれた言葉を胸に、淡々と事実だけを重ねていく文章にしました」
 ぼくがそういうと、彼は受話器の向こうでふふふと笑い、
「映画『たそがれ清兵衛』の宮沢りえみたいに、抑えた演技で助演女優賞でもとるつもりだな」
 と茶化した。彼の周囲の経営者仲間には好評らしい。従来の冗談好きで野心満々な経営者像とは違う視点で、書かれてあるからだろう。森下さんにも弱点や日々の葛藤があると知って、たぶん彼らはホッとしている。
 でも書き手として、本人のかっこ悪い部分まで書き込んで、なおかつ本人から嬉しそうに電話をもらえるのはありがたい。もちろん、それは森下さんの度量の大きさゆえであることは、説明不要だ。
 彼から優秀な営業マンの極意を聞けたことは、今回の記事もふくめて、ぼくには大きな財産になっている。
 しかも、ぼくは去年から森下さんに「あなたの本を書かせてください」とラブコールを送り、全然関係ない拙著まで送りつけている。今回の仕事は、去年ぼくが彼について取材した2Pの記事を見て、一面識もない「ベンチャー」の編集者が、7Pで森下さんを改めて書いて欲しいと依頼してきてくれた。そう、ぼくと森下さんは赤い糸で結ばれていたんだ(と勝手に思い込んでやる!)
 先月下旬発売された彼の初めての著書は、出版元のPHPの仕事ぶりがひどく、さらにぼくの書きたい想いは募っている。この電話で半歩前進かな。
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 森下さんの「練習」する姿勢について少し書く。これは雑誌の記事にも書いたことだけれど、彼の手帳に、こんな記述を見つけた。「態度が尊大だと思われてしまう」と書かれた右ページの裏には、「反論しない」「そうですね、と言ってみる」「黙ってうなずく」といった対策が箇条書きされていた。
 年商46億円企業のトップである、57歳の彼が今も、そこまで練習している事実に驚かされた。凄まじき向上心だ。
 大学の同級生に聞くと、「目立ちたがり屋でリーダーシップがある半面、すごく臆病でナイーブな男」だという。そして学生時代から、頭で考えることと、わざと違う行動をとり始めたという。
 たとえば、わざとスピード違反をしてみる。5回試みて、3回は見つからずに2回は捕まった。その経験値をもつことで、盲目的な警察への恐怖心が消えた。
 営業マン時代、取引上のトラブルから、暴力団事務所にお詫びしに行くことになった。スーツの内ポケットに100万円を忍ばせ、右手に菓子折り、左手に2万円をにぎりしめて、事務所のドアを叩いた。
「そしたら丸坊主の、いかにもな男が出てきて、来意を話すと、いきなり俺の頭を押さえつけて、菓子折りと二万円を握っていた俺の両手を、足で踏みつけてきたわけさ。それでも最悪な状況になったら100万円出せば命は助かると思っているから、手は痛いけど、不思議と恐くはなかったんだ。結局、100万円を差し出すことなく、勘弁してもらえた。そういう経験値が増えると、少しずつでも度胸はついてくるさ」
 と彼は言った。すっげぇ〜。
 57歳の今も、彼はそんな練習を続けている。これは使える!と思い、ぼくも少しずつ練習を始めた。
 ふと判断に迷ったとき、今までの自分とは反対の選択をしてみる。すると心配していたことが、特に深刻な状況になっていなかったりした。大きな発見だ。
 そういう経験をすると、自分の言動を縛り付けているのは、案外、自分自身かもしんないと思えてくる。
テンポスバスターズ
http://www.tenpos.co.jp/