丸山次郎『NORIKA』(徳間書店)〜地方発フロンティア・スピリット

rosa412004-06-11

 月刊誌『潮』来月発売号の取材で、長野市へ日帰り出張。実に面白かった。超小型カプセル内視鏡「NORIKA]を開発したアールエフ社だ。これは治験者に苦痛を強いる胃カメラに取って代わるカプセル内視鏡で、風邪薬みたいなものを飲み込み、消化器官から排泄する経路で、それぞれの器官の映像をパソコンと連動して映せる優れもの。従業員120名弱。その他にも、歯科医院で使われる口腔内カメラ(世界シェア80%)や、放送局用マイクロCCDカメラなども開発している。
 雑誌掲載前にあまり詳しくは書けないが、この丸山次郎社長は実にカッコイイ56歳だった。ルックスの話ではない。むしろ、その言動はどこかオバちゃんっぽい。腰も低い。しかし認可以降は数百億円規模の市場を形成すると予想されるオンリー・ワン技術なのに、丸山さん自身は、今後も奥さんと二人で家賃9万円の2LDKの賃貸マンション暮らしを変えるつもりはない。後進的な日本市場など相手にせず、米国での株式上場を検討中だが、その株式上場益の9割は、’05年に長野市内で設立する、技術者を対象にした大学院大学設立費用に出資すると明言してもいる。
「子どもも独立したし、夫婦二人で老後生活が維持できる資金さえあれば、それ以上のお金なんて必要ないでしょう」
 と淡々と語る。長野駅前に二棟の自社ビルを構える創業社長の言葉かとぼくは耳を疑った。そんな資産形成や自社がマンモス企業化することより、社員たちがその成長の途上で、どんどん独立して、お互いがいいライバルとして技術革新を競うことをこそ、彼は夢見ているという。その業績と製品開発のスケールの大きさ、それとけっして自分を見失わない彼の確固たる人生観のコントラストに、ぼくは圧倒された。
「丸山さん。フリーライターの分際で、分不相応な分譲マンションを買って、そのローン返済に汲々としている自分が今、たまらなく恥ずかしいです」
 そう正直に告白したぼくに、彼は「そんなことないですよぉ〜」とニコニコしながら言ってくれた。自分のことを情けなく思う反面、こういう人物に会うと、この商売をしていてホントに良かったなぁとぼくはひしひしと思う。なんともいえない幸福感に体温が上がる。
 取材を終えて、夕方頃に長野駅前の蕎麦屋に入ると、M自動車の元社長ら逮捕と、自治体使用車からの締め出しを、地元テレビ局が伝えていた。減点主義の人事考課の中で、顧客を軽視し、ひたすら企業防衛に走った末の凋落。アールエフ社の創業は93年だが、当初夫婦2人での出発だった零細企業に就職した人と、天下のM自動車に就職した人。どちらも会社のために一生懸命働いたとしても、彼らの人生は大きな明暗を分けてしまった。まるで日本社会の潮目の変わり具合いを、目の当たりにしたような気分になった。
丸山次郎著『NORIKA』(ASIN:4198616582)
アールエフweb http://www.rfsystemlab.com/