テオ・アンゲロプロス監督作品『再現』〜長編デビュー作にみる<原形>

rosa412004-07-10

 今日からテオ・アゲンロプロス映画祭が、東京・国際フォーラムD1で開幕。彼の12作品がまとめて観られる映画祭は、世界で初めてらしい。前の日に電話したが、すでに今日のチケットは完売していた。(といっても全130席なのだが)当日券のキャンセル待ち整理券番号19番。こりゃ無理かなと思ったが、なんとか座席を確保できた。12時の開演前には、60人近くがキャンセル待ちを求めてたむろっていた。座布団席でも入りきれず、帰った人もいたらしい。ニュースキャスターの筑紫哲也さんが、ラフな服装で会場に顔をみせていた。
 で、『再現』だが、1970年の劇場公開用長編作品デビュー作。アンゲロプロスの原形を観たくて僕は出かけた。ギリシア出身の監督が、経済的に疲弊する母国の現実と向き合いながら、それを映画たらしめようとした作品でもある。
 北ギリシアの貧しい村で、出稼ぎ先のドイツから帰国した夫が絞殺される。妻とその愛人が犯人であることは、序盤に明かされるのだが、その真相や動機はわからない。妻らの犯行を疑う地方検察、独自の調査を進めるジャーナリスト(予算節約か、アンゲロプロスが演じてる)、そして映画という3つの視点から、事件の真相に迫っていく。その着想は面白い。だが、それぞれの肉迫ぶりはどれも中途半端で不満が残る。主演女優が素人だったせいで、肉迫できなかったのかもしれないが、殺害の真相は結局よくわからないままだった。
 石だらけの丘に立つ枯れ木の下、殺した夫の旅行カバンを燃やす妻の場面など、絵画的で、映像詩人とよばれる彼の出発点を思わせるカットはいくつかある。時系列をばらばらにして展開する構成も、他の作品の原形を思わせる。
 淡々と進む展開が急に熱を帯びるのは、逮捕された男女を、村の女たちの集団が待ち構えている場面だ。彼女たちは突然、「人殺し!」と叫び、警察官などの制止など気にすることなく彼女に殴りかかる。この映画は唯一、その場面だけ発熱する。そこには怒りの他に、羨望や嫉妬さえ込められている風に僕には見えた。彼女同様、出稼ぎ夫のいない生活に延々と耐えている女たちの欲望を、ひとあし先に体現してしまった女への制裁。それを描くことで、牢獄のように外の世界と隔絶したコミュニティの息苦しさを浮き彫りにもする。それが当時の監督の目に映った、ギリシャ社会だったのかもしれない。先のユーロ杯でもひたすら守り、わずか数回のセットプレーで奪った1点で勝つ、地味で陰鬱としたサッカーだったしな。優勝したけど。
 また、家の外側からの引いた映像で、ありふれた日常の中で起こる凄惨な事件を、観る側に想像させつつ、そこに学校から戻ってくる子供たちと母親が抱き合うという日常を、再びつなげて見せるラストは秀逸。一人の女性の日常と非日常を、愛情と殺意を、一枚のコインの裏表として穏やかに、そして鮮やかに表現していた。でも作品全体では、これといった驚きがなかったから100点満点で60点。明日は長編『旅芸人の記録』だ。

テオ・アンゲロプロス紹介
http://www.allcinema.net/prog/show_p.php?num_p=4188