小林照幸著『毒蛇』(TBSブリタニカ)

 今月8日付けのスチャラカで、銅版画家の山本容子さんの話を書いた。(id:rosa41:20040808)「絵にならないモノを版画にしよう」という彼女の着想に触れて、最寄の図書館で借りてきた一冊が、小林さんの『毒蛇』(ASIN:4167637014)。一見地味なテーマをどう作品化しているかをお勉強するためだ。
 奄美大島などを中心に生息するハブ。そのハブにかまれた人を救う血清製剤と、さらにはハブの毒素を活用して作る予防接種を研究開発した研究者、沢井芳男氏の軌跡を追った本だ。ハブにかまれて筋肉が腐臭を放ちながら壊死していく人や、苦しみながら息絶えていく人の実話が実にリアルに描写されていて、一気に読ませる。だが昭和30年前半の沢井の体験を、資料に当たりながら、本人から聞き書きしつつまとめられているだけで、沢井その人がどんな人物だったのかが浮き彫りになってこない点に不満も残る。小林さんが学生時代に書いた本のせいか。
 ただ、何事にせよ、研究開発の話にはそれに取りつかれて、情熱を傾けた人間がいる。その人間を立体感をもって描き出せれば、じゅうぶんに作品になることはよくわかった。