引きこもり経験は生きている〜デイケア・サービスに就職したS君

rosa412004-09-02

 人間って面白いなぁと思う。人間関係が苦手で引きこもったS君(30歳)は、それから10年後の今年6月に就職した。介護老人や痴呆症の老人の世話をするデイケア・サービスだ。
「職場でも痴呆症の人を病人扱いする人もいるんですけど、ぼくもふくめて人間なんてどっか変なとこは、健常者でもそうでない人もあると思ってるので、そんな区別する意識はありませんね。特に仲良しになりたいとも思いませんけど。そうですね、いろんな引きこもりの若者をたくさん見てきたから、ぼくのストライクゾーンが広がってる部分はあるかもしれませんね」
 彼はそう言った。中華街・菜香新館で、奥さんも交えて3人で夕食をともにした。
 彼自身、大学不登校から退学というドロップアウト経験がある。いわば、外れた人間として区別される側だった。だからこそ、その区別の無意味さが見えるのだと思う。だから彼自身の引きこもり経験も、同じ引きこもりとNPO団体で付き合ってきた経験は、両方とも、区別あるいは差別されやすい人間への想像力という強みとして、彼に備わっている。
 対人関係に悩んだ彼が、より濃密な人間関係を結ぶことになる、介護の現場で、人と交わっている。それは会社に勤める以上に赤裸々な人間を見ることになる。そこにいる様々な人達を、面白いと彼は言う。
 そう、彼は人間が好きで、人一倍興味を持っている。いや、たぶん、引きこもった頃からそうだった気がする。その興味が強すぎて、うまく距離感が保てなかったのかもしれない。
「そうですねぇ、確かに、引きこもっていて足りない対人関係を、より濃密な対人関係と切り結ぶことでバランスを取ろうとしている部分があるのかもしれませんねぇ」
 つまり、引きこもり経験も、引きこもりの若者と向き合った日々も、きちんと今の彼の仕事につながっている。神様はなんてフェアなんだろう。最初に就職した横浜のホテルより、はるかに彼に向いていることがわかった。少し遠回りしたことは、けっして無駄じゃなかった。
 ちなみに、菜香新館では、蒸し海老餃子、黄にら入りワンタン、牛もつ煮込み、スペアリブの黒豆煮込み、それに福建省あんかけチャーハン、香港風やきそば。どれも美味しくて外れなし。3人で8700円、やっぱ安くて美味しい飲茶なら、ここだよなぁ。

●菜香新館http://www.oisii-net.co.jp/saikoh/equipment/shinkan.html#