ウィリアム・クライン『PARIS+KLEIN』展(東京都写真美術館)〜狙撃兵(スナイパー)の眼差し

rosa412004-09-16

 この人はモノクロの方が断然好きだ。しかもファッション写真ではなく、60年代の街頭で普通の人たちを撮影した写真がとりわけいい。こういうのを観ると、カラーの弱さを痛感させられる。情報の多さが作品の首を絞めてしまうことがある、という格好の見本だ。
 今回の展示では、有名人の葬列を見送るパリ市民たちを撮った、モノクロ4作品が気に入った。とりわけ、1940年代のフランス共産党の指導者モーリス・トレーズの葬列を見送る4人の女たち。
 ちょうど、東西南北のそれぞれの方向に4人の女たちの顔がある。一番手前、つまりは南側の60代の食堂のオバちゃん風の女性は、どこか呆然自失といった表情で視線を落とし、それと好対照なのが北側の、ネッカチーフで頭を覆い、顎の下できっちりと結んだ、少しハイソな感じのする60代の女性。一人強ばった表情でカメラを見すえている。南側の女性と違って、そのやり場のない憤りが伝わってくる。
 東側には、アフロか寝起きかといった髪型の30代後半のオバサンが右を向き、西側では30代前半のワンピース姿のきれいな顔立ちの女性が左を向いている。それぞれの表情に、故人との距離感が、もっといえばフランス型共産主義への当時の想いの深浅や、移ろいがきちっと出ている。
 それはテレビのような置き網トロール漁法ではなく、狙撃兵(スナイパー)の仕事だ。無造作にあれこれ根こそぎにせず、当時の空気を的確に映す情景を、ワンショットできちんと彼は撃ちぬいている。
 そんなワンシーンの有無は文章にとっても大きい。社会の空気を的確に反映させる情景をこそ、クラインのようにしっかりと書き込む。その大切さは、古今東西、新しいも古いもない。


ウィリアム・クライン『PARIS+KLEIN』展(東京都写真美術館 10月6日まで)
森山大道の先達で、独特の<ブレ・ボケ・アレ>を多用したスタイルで脚光を浴びた男。76歳になる今も現役バリバリだ。今回はパリで展示された写真展の日本巡回展だ。http://www.syabi.com/