べてるに学ぶおりていく生き方<VOL1> 東京大学本郷キャンパス午後1時〜4時
シンポジウムはまず一人の女性の、「ずんどこ節」の替え歌から始まった。
「嫌じゃあ〜りませんか、分裂病 パパヤッ
家族のみんなに 世話かけて
みんな疲れて 寝不足でぇ〜
(中略)
神からもらった宝物
でも、よく見〜りゃ
世の中み〜んな病気持ち
ずん・ずん・ずん ずんどこ東大!」
いきなり手拍子と歓声が、東大医学部教育研究塔14階の鉄門講堂にひびきわたった。おいおい、こんなの観たことないぞ。
北海道浦川市に「べてるの家」という社会福祉法人がある。精神分裂病の患者さんたちが、干し昆布などを出荷しながら暮らすグループホームだ。といっても、近年、このべてるの家は脚光をあびている。
「治さない医療、治せない医療」をキャッチフレーズに、患者と医師らが並列につながりながら共同体を形成していて、”上下関係のない精神医療の先駆的実践”というスポットライトだ。
国連のジュネーブ事務所で演説した人、皇后陛下に謁見した人がいて、そして東大シンポの実現。しかも300人の座席はもちろん、3列にならぶ机と机の間の通路にも二人ずつ座り、さらに立ち見までいて約450人見当という大盛況ぶりだ。
実は昨年、ぼくも人物ルポの取材を、このべてるの家に申し込んで、見事に断られたことがある。先日、田口ランディさんのblogで、そのべてるが東大でシンポという告知を見て、生べてるをひと目見ようと駆けつけた。そしたら、いきなりの期待にたがわぬ「ずんどこ節」での幕開けだった。司会は上野千鶴子東大教授。
なにせ参加者のキャッチコピーがすごい。
まず、「幻覚妄想大会のグランプリ受賞者」のKさんは、いきなり味わいのあるコメントを残した。
「メンバーとそれぞれの病気のことを仲間と語り合って、だんだん気持ちが楽になって、語りあえば楽しく生きられるんだなってわかりました。昔は発作がおこらないように、自分をうまくコントロールしようとか思って、あれこれ努力もしましたけど、わかったんですよ。自分の病気には逆らえないなって」
美人の摂食障害Fさんは、自称「食べはきのプリンセス」。彼女は言う。「病気そのものは大きく変わったってことないんですけどね。ただ病名はそれぞれ違うけれど、同じメンバーと話すことで、この場所にいていいんだっていう安心感をえられた気がします。なんか効率的に与えられた課題をこなして、そこに付加価値をつけるという生き方でなくても、この身ひとつで生きてもいいかなって・・・」
司会の上野さんが、べてるで働く医師として必要なポイントはと精神科医の川村さんに聴くと、
「一見、マイナスにしか見えない状況を、いかに楽しむかという力(ちから)が医師には必要だと思います」
穏やかな声でそう答えた。楽しむ力(ちから)―それはオレにも足りなくて、そして必要な力だと思った。
<次回につづく>