変わらないことの凄み

rosa412004-12-07

「○○さん?今どちらにいらっしゃいますか?」
 携帯電話で彼女がそう話すのをきいて、ぼくは、えっ、と思った。和田裕美さんが話している相手は、彼女が社長をつとめる会社の創業時からの女性社員だったからだ。昨日書いた講演会前、東京駅ステーションホテルのティー・ラウンジで打ち合わせしているときのことだ。
 和田さん、○○さんにまでいつもそんな言葉遣いなんですか、とぼくがきくと、ええ、ずいぶん他人行儀で冷たいでしょう。そういって、彼女はうすく笑った。すごいな、今日の講演会がもし取材だったら、ぼくはその記事を携帯電話での今の会話から書き始めますよ、と言った。
 なにげない言動にこそ、その人となりが強く匂い立つ。そんな一瞬をいかに発見するかが、ぼくの仕事の勝負どころだから。
 東京駅丸の内北口の新名所、丸の内オゾン1階の丸善・丸の内店にも、彼女の新刊本がどっさり平積みされていた。大きな書店にいけば、彼女の3、4冊の表紙がならんでいたりする。本が売れない時代に、既刊本4冊だけでも27万部も売れているベストセラー作家になっても、彼女はあの頃とまるで変わらない。少しの傲慢さも尊大さも見せない。
 あの頃とは、ぼくが約1ヵ月半かけて彼女を取材していた去年の冬の話だ。まだ最初に出した本が5000部も売れてなかった。だから、その変わらなさぶりは並大抵のことではない。それが冒頭の携帯電話での、女性社員への敬語に凝縮していた。
 昨日も紹介した和田さんの新刊本にも、子供の頃から、成績優秀でバレーボール部の花形選手だった姉にあこがれている<できない子>だった彼女の話が、あっけらかんと語られている。そんな<できない子>が初めて他人よりできたものが、英会話教材の営業という仕事だった。
 そんな軌跡をもつ彼女なら、ベストセラー作家になった今、ちょっとは気取ってもいいだろう。「どうだ!」ぐらい大見得を切ってもよさそうだが、まるでそれがない。その謙虚さはまるで鎧(よろい)のようだ。