佐野元春『THE SUN』〜本当の希望に必要な持久力

THE SUN (通常盤)

THE SUN (通常盤)

 2週間ぶりにプールで泳いでの帰り道、TUTAYAに寄って、年賀状をかきながら聴けるCDを探していて、「カッコイイオヤジ」という見出し付きで、元春の『THE SUN』がリコメンドされていた。当日返却で借りて帰り、さっそく年賀状をかきながらCDを聴きはじめた。1回半ほどそれをBGMに年賀状を三分の一ほど書いて、少し手を休めていたら、表題曲の『THE SUN』の言葉と旋律がちゃんと聴こえてきた。
「God 夢を見る力をもっと」と元春は歌っていた。イラクでの戦争は終わらず、日本では陰惨な事件ばかりが相次いでも、彼はやっぱり希望を歌いつづけていた。CD全体の完成度もすこぶる高い。
 91年夏のニューヨーク、マンハッタンアイランドのロワー・イーストを流れるイーストリバー沿いに建つコンドミニアム12階で、元春の『サムディ』のテープを何度も何度も聴いていた頃を思い出した。
「素敵なことは素敵だと無邪気に 笑える心が好きさ」という歌詞に共感し、
「つまらない大人にはなりたくない」という歌詞に一人深くうなづいていた。
 あれから13年が過ぎて、元春はその新譜で庶民的な幸福や仕事と子育てに奔走する離婚女性の情景など、妙に現実的な歌にも挑戦しながらも、やはり「希望」を歌っていた。その事実におれはグッときて、しばらくしたら今度は無性に自分が恥ずかしくなった。
 青春時代の道標だった元春の歌を、210円で借りてMDに録音している自分に、しかも一度もちゃんと聴かず、BGMがわりに流しながら年賀状を書いている自分に、改めてうんざりした。自分にとって大切なものとそうでないものの見分けもつかなくなり、そのことにさえ無自覚になりつつある。なんともダメな自分をまじまじと一人見つめた。本当の希望に必要な持久力、という言葉がふいにうかんだ。