佐野眞一『大往生の島』〜矜持をもって生きる背筋

大往生の島

大往生の島

 山口県大島郡沖家室島は、山口県の南端と愛媛県の西端にはさまれた瀬戸内海にある。その島の人口約5500人の東和町は、日本の高齢化を先取りした島といわれる。この本によると、昭和50年から17年間も高齢化率1位の座を保っている。65歳以上の高齢者が人口の約半分をしめる。
 佐野さんは在野の民俗学者宮本常一の取材でこの島を訪れたとき、この本の制作を決意している。東和町のお年寄りの約90%が、子供たちが島の外に出て行っても、老夫婦か一人暮らしの生活に満足している、という調査結果がきっかけらしい。
 本には島でくらす老親と島外でくらす子供たち、あるいはUターンした島民、それぞれの軌跡と葛藤がえがかれている。たとえば本に登場する、島唯一人の住職のこんな言葉にこころ惹かれる。

「この島の人たちは、学歴があるわけでもなければ、社会的地位が高いわけでもない。にもかかわらず、死生観については、坊主の私の方が教えられることが多いんです。
 昨日まで元気にしていた人が、翌朝ポックリ死んでいた。ふだん死について何もいってなかったのに、茶箪笥(だんす)の引き出しをあけると、残された家財道具一点一点について、これは誰それにあげてください、ときちんと遺書がしたためてあった。立派な大往生だと思いました。

 ふだん、都市で生活していると、こういう矜持とはまるで反対な方向で考え、行動しがちだ。いたずらに「若さ」や「生」を追い求めるあまりに、「老い」や「死」の価値を見失ってしまう。それに似たトンチンカンは、ぼくにも今まで腐るほどある。だからこそ、こんな矜持をもって生きる無名の老人たちの背筋にあこがれる。 
 この本でもうひとつ目を引くのは、その重層的な構成だ。それは参考資料の膨大な量に裏打ちされている。しかも高齢化社会関連の書籍や報告書はもちろん、地誌や地史、ハワイ日本人移民史や郷土資料など、じつに多岐にわたる。ぼくのように文章構成にとって都合のいいデータをさがすのではなく、むしろ取材と並行して、資料の山を読み込むなかで、新たな物語を着想するかのような姿勢を感じる。
「いや、もちろん、資料収集は本来そうあるべきなんだよな(^^;)」切腹〜!!