飯島夏樹という朗らかな風

rosa412005-02-11

 奥さんの元の職場の同僚から、彼女の携帯にメールが入った。今晩9時から2時間のドキュメンタリー番組がテレビであるから、もし興味があれば観てほしいという。元日本代表のウィンド・サーファーで、末期の肝臓ガンを患っている男性と、その家族の物語だという。元同僚のお母さんが、彼のお母さんと知り合いらしい。
 少し躊躇しながら、結局は夫婦で観た。結果から言うと、主人公である飯島夏樹氏の気さくな人柄のおかげで、どこか日向の乾いた土の匂いがする、からっとした番組になっていた。
 じつはぼくはこの手の難病ものが苦手だ。でも飯島さんの淡々とした強さと、奥さんの気丈夫さが、観る者をジメジメとした感情から極力遠ざけてくれていた。観てよかった。
 詳細は省く。飯島さんが書いた本は新潮社から出版されて17刷りだというから、興味がある人は買って読んでほしい。日本での抗がん剤による延命治療を拒否して、彼は奥さんと4人の子どもさんと今、ハワイで暮らしている。新潮社のwebサイトで、飯島氏のエッセイ「今日も生かされてます」も連載されている。
 番組の中で、飯島氏が懇意にしている医者の出張診療に同行した先の、82歳の女性末期がん患者の言葉が胸に残った。
「だって落ち込んでたって仕方ないじゃない。どうせなら、余った命をどう使い切るかを考えた方がいいじゃないねぇ」
 とても知的で上品そうな顔立ちの彼女はそう言って、福々しく笑っていた。
 ぼくもふくめて、生きている人間はずいぶんとバカだよなぁ。死とかストレスとかいろんなものを遠ざけようと、いつも必死こいてる。文明なんて、そういうものを遠ざけようとするノイズの集大成だったりする。
 でも実はあべこべで、いっつもわざと死を遠ざけようとするから、生きている今に対しても鈍感なんだ。そのくせ、時々、死に直面している人のこういう物語を見て涙したりして、明日になったらそんなことをすっかり忘れて、小さなことにクヨクヨしたり、イライラしたりしはじめる。
 ああ、原稿書くのシンドイなぁなんて思ってるバカ。それはぼくだ。あべこべだろっ!自分が興味があって、それを自分がやるべき仕事として与えられているなんて、すごくラッキーなことなんだから。そんな当たり前のことを、よく見失う。近視のような遠視のような、お粗末なぼくよ。
 近づく死と向き合うことで、濃密な日々をいとおしく生きている飯島さんのwebエッセイを読むと、自分のあべこべさがはっきりと見える。