クラムボン『まちわび まちさび』〜原田郁子の言葉のしなやかな握力

まちわび まちさび

まちわび まちさび

 
クラムボンのヴォーカル原田郁子の詩の世界は多彩で楽しい。
 1曲目の『ドギー&マギー』は、谷川俊太郎さんの言葉あそびみたいに始まる。

ユラメキ
シシュンキ
トキドキ
タメイキ

ヒラメキ
マバタキ
トキドキ
トキメキ

 タイトル曲の「まちわび まちさび」は、変容していく駅前(あるいは日本)の風景を「わび・さび」にひっかけて、アップテンポなメロディにのせている、

 だんだん 駅前がもう
 だんだん わびしくて
 だんだん さびれてもでも
 だんだん においのあるまち
 (中略)
 ぜんぜん 駅前がもう
 ぜんぜん わびしいほど
 ぜんぜん さびしいほどに
 ぜんぜん においのないまち

 で、さっきからリピートモードでずっと聴いているのは、8曲目の『246』。別れの予感を漂わせる男女の心情を、車窓の光景とだぶらせて、短いセンテンスを重ねながら見事に描き切っていて、せつな痛い。

(前略)
気まずいながら 笑っていたの
赤い嘘も またひとつそっと
君に沈むよ ハレルヤ

おしまい 誰かの声
おしまい 長い季節
ハンドル 切るたびに
目のまえの つづき広がるの

ふみこむから 消えてゆく はかないシーン
ふみこえると 消えてゆく 白いライン
(後略)

 ことさら説明するまでもないが、ブレーキを踏む行為と、何かを踏みこえて(あるいは踏みはずして)しまった二人の関係を、さりげなくダブらせているサビの部分が、原田の、ロウソクのゆらめく炎めいたヴォーカルで歌われるとき、シャボン玉みたいに何かが弾け終えている。当分リピートしてしまいそうだ。