ライブドアの「時間外取引」問題と官庁発報道の弊害

 マスコミの末端で働く人間の一人として、自戒の念もこめて書くのだけれど、今回のライブドア報道で、いろいろと見落とされている問題が少なくない。そのひとつに、発端である東証の「時間外取引」がある。
 一連の報道、ネットや新聞やテレビなどを通して、経済オンチの私が最初にもった印象は、かつて江川卓投手が「空白の1日」を使って、読売巨人軍に入団したみたいな手法というものだ。しかし、あの最初の時点で、そもそも時間外取引が、どういう経緯で生まれたもので、制度的な不備はなかったのか、など制度の背景や実情はまるで議論されなかった。
 一方、フジあるいはニッポン放送側が「ライブドアのは違法の取引きだ!」と主張し、仮処分などの訴訟沙汰になり、金融庁でも時間外取引の制限に動いた。結局は、東京地裁はその時間外取引についても「違法ではない」と結論づけた。
 こうなると、そういう不備を「想定外」と自己弁護して、ライブドアが活用すれば、あたかもライブドア側に非があるように、突然、利用制度を改めてみせた東証、あるいはそれを監督すべき金融庁側の責任も論じられるべきだろう。
 車だって製造システム上の不備があれば、リコールされ、回収される。それは製造者側の責任だからだ。それを放置していたら、国土交通省の責任問題にもなる。
 しかし、そういう議論はまるで聞こえてこない。なぜか?
日経ビジネス誌の読者専用のメルマガ「日経エクスプレス」で酒井耕一さんが時間外取引って何?フジ奇襲に使われた米バブルの残照」という記事で、明らかにしてくれている。くわしくは、その緑色の表題をクリックして読んでほしい。
 要約すると、米国のネットバブル華やかなりし頃、私設証券市場が人気を博していて、その日本進出を恐れた東証が慌てて、それを真似て98年に作ったのが「時間外取引」システムだったという。だが米のネットバブルが弾けたために、日本のそれは一般的な認知度も上がらないまま、その不備についても議論されずに今まできたらしい。
 酒井氏も、そもそも時間外取引がなぜ生まれたのか。法整備などは手付かずだった理由やそれ以外の問題点はないのか。第三者東証財務省を調査するべきだと指摘している。
 実は私も先週、ある人からまったく同じ指摘を聞いて、なるほどねと思った。そもそも、「時間外取引」は、東証が収入を増やしたくて始めたもので、自分たちのずさんな管理や運営を、ライブドアのせいにして責任逃れをしているだけだ、とその人は話していた。
 そういう指摘が新聞やテレビでなぜ出てこないか。答えは簡単で、記者クラブの記者に知識がなく、財務省東証の受け売りをただ記事にしているだけだから。その是非を検証する作業ができていない。そして裁判所の「違法ではない」見解が示された今も、もはや問題はソフトバンクライブドアの対立の構図に移っていて、「時間外取引」など昔話になっている。一連の報道フィーバーは予想外の展開つづきで確かに面白い。だが面白いだけでいいという話でもない。