オーティス・レディング『Good to Me』〜「上手な歌なんてクソ食らえだ!」とはっきりと聴こえる

Good to Me-Live at the Whiskey 2

Good to Me-Live at the Whiskey 2

 
 スカイパーフェクトTVに「スターデジオ」という100チャンネルの音楽番組(月額1200円)があり、もう5年以上愛聴している。けれど、このデジタル放送から何かを録音しようと思ったことは一度もなかった。
 それが2週間前、突然、耳に残ったヴォーカルがあった。理由は自分でもよくわからない。ただ、急にその歌声だけは録音したくなった。
 一方で元来の機械オンチのぼくは、半面、面倒くさくもあった。接続コードでテレビとつないでも、旧式のMDレコーダーで録音できるかどうかも、わからなかったから。それでも週ごとにプログラムが変わるので、その終了2日前に接続コードを買いに出た。MDコンポは仕事部屋にあり、わざわざ、テレビのあるリヴィングまで持ってきて、セッティングするのも億劫だったからだ。
 その歌い手がオーティス・レディングだった。ネットで調べると、弱冠26歳だった1967年に、飛行機事故で亡くなった「ソウルの王」と呼ばれた男だと知る。先々週のことだ。
 今日は取材の帰りに寄った新宿タワレコの、オーティスのCDの中で手書きのレコメンドがついていたのが、この1966年のライブ盤『Good to Me』だった。先にMD録音していたのがスタジオ盤だったので、ぼくは少し迷ってから、そのレコメンドのものを買った。大正解だった、というか、ぼくが求めていたものを見つけた。
 12曲入りのCDは、最初から異常なハイテンションで最後まで歌われている。まるでその翌年に事故にあうのを予知していたのかと思わせるような性急ささえ感じさせる熱唱ばかりだ。ただ、やはり10曲目の名曲『I'VE BEEN LOVING YOU TOO LONG』と、最後の12曲目『A HARD DAY'S NIGHT』が、素人耳にも図抜けている。
 ぼくが求めていたのは、有名なビートルズ・ナンバーの最後の曲だった。だがオーティスの歌うそれは、ビートルズとは全然違う。音程もあやしいし、歌詞の途中で息も上がっている。唾とともに、聴衆にむけて歌詞を吐き捨てるかのような歌いっぷりだ。まるで上手く歌おうなんて意識がない。歌詞という濡れ雑巾(ぞうきん)を、ステージに何度も何度も何度でも叩きつけているみたいにさえ聴こえる
 その歌に血がぐわっと逆流する気がして、ぼくは仕事部屋で思わず椅子から立ち上がり、全身でビートを刻みながら、縦ノリしてしまった。・・・アホウである。大それたことだとわかっている。それでも、この歌、いや、この叫びみたいな文章が、ぼくは書きたい。死ぬまでに一回だけでいいから。・・・・・・どうぞ、大笑いしてくれ。

モータウンは白人マーケットに明確に照準を合わせていた企業であり、所属タレントの身だしなみや言葉遣いからレコード作品上の僅かな改変まで、あらゆる側面が管理されていた、というだけのことである。一方、サザン・ソウル・ミュージックはフリー・ランスと個人主義者たちの温床だった。バンドは音を外し、ドラマーはリズムをキープできず、シンガーの音程も狂っているかもしれない。それでもメッセージを伝えることができる、そんなタイプの音楽だった。なぜなら、サザン・ソウルにおいては音楽の底に流れるフィーリングが全てだったからである。フィーリングがリズムを決定し、フィーリングが曲のぺースを決定した。

              『スウィート・ソウル・ミュージック〜リズム・アンド・ブルースと南部の自由への夢』より抜粋引用。

スウィート・ソウル・ミュージック―リズム・アンド・ブルースと南部の自由への夢

スウィート・ソウル・ミュージック―リズム・アンド・ブルースと南部の自由への夢