『エターナル・サンシャイン』〜C・カウフマン魔術(マジック)を堪能

rosa412005-04-02

 好きだなぁ、おれはチャーリー・カウフマンの脚本が。『マルコビッチの穴』『ヒューマンネイチュア』もいいけど、今回のが一番気に入った。なぜなら、物哀しさと温かみのバランスが良くて、抑制のきいた21世紀の正統派ラブストーリーに仕上がっているから。
 ジム・キャリー演じる主人公は、喧嘩別れした彼女(ケイト・ウィンスレット)が自分の記憶を全部消してしまったことにショックをうけ、自分も記憶除去手術を受けようとするのだが・・・、という物語。
 SFちっくな大胆な着想、グロテスクさとユーモア、あるいは、切なさとアイロニーのバランスが実にいい。もちろん、そこはカウフマンだから、「えっ、なんで」という騙(だま)し絵的展開もきちんと用意されている。だが、それは一分の隙もない作品に、彼がいつも意図的に加えるひと捻(ひね)りにすぎない。
 それは織田信長豊臣秀吉に仕えた武将でありながら、千利休の跡を継いだ茶人で、陶工でもあった古田織部の、意図的に歪みが加えられた陶器「織部焼き」と同じものだ。
「完成されたものなんてツマンナイ」
 そんなカウフマン特有の照れと美意識である。
 しかも上質のエンターティメントでありながら、観終わって映画館を出るときに、自分の価値観が少し前向きに広がっていることに気づく。一粒で二度おいしい映画脚本だ。とりわけ今回の作品は、最後の二人の口論から結末への展開が素晴らしい。何気ない言葉が、痛々しく、ばかばかしく、けれど圧倒的な誠実さで、観る者の胸に届いてくる。カウフマン式魔術(マジック)を満喫した。