渋谷シネマライズ「ライトニング・イン・ア・ボトル」〜「行間」をこそ聞かせるブルース音楽生誕100周年記念ライブ

rosa412005-04-16

 ちょっとした自慢話がある。1990年、3ヶ月ほどニューヨークで暮らしていたときのこと。B.Bキングとマイルス・デイビスという奇跡的なジョイントライブが、リンカーンセンターで行われた。そのライブ情報を知ったのは、ライブ4日前。
 チケットはもうないかなぁと思いながらも、とりあえずチケットを求めて行ってみたら取れたんだな。しかも、なんか直前キャンセルが出たとしか思えない、前から3列目という絶好な席で。確か、その数ヵ月後にマイルスは他界している。生B.Bが良かった。そのせり出た腹の上にギターをのせるようにして弾きながら、極上の温泉にでもつかっているような表情で歌っていた。この映画を観て、そんな光景をあらためて思い出した。
 映画の序盤で、デルタ・ブルースの生き字引き、デイビット・ハニーボーイ・エドワーズ89歳は歌う。

 おいらはバクチ打ち 
 ミシシッピーで カンザスシティーで 
 バクチを打っていた
 でも儲からなかったさ
 それでも、おいらはバクチを打ち

 そのままやんけ!とツッコミを入れたくなるような歌詞が、彼のギターとヴォーカルにのることで、がぜん輝き始める。その前か後に、こんなナレーションが流れた。
「最近、やたらとブルースを歌うやつらがいる。だけど歌詞と旋律は誰にでも作れるんだが、それだけではダメなんだ。だってブルースはその行間にこそあるんだから」
 く〜っ、言うねぇ言うねぇ〜。
 傷んでいたり、ひび割れているがゆえに、その輝きを増すものがある。見た目の「若さ」や「きれいさ」ばかりをいたずらに賞賛する、ガリガリに痩せ細ったド近眼の国に、この映画は、この映画に出演する生き延びてきた老若男女たちは、これでもかというぐらいにその輝きを浴びせかけてくる。もちろん、妙に疲れている、ぼくやあなたにも。
 だいたい、この70、80代の人たちがなんでこんなに元気爆発なんだよ?
 この映画のトリに登場する、B.Bキングが歌ったのは「スウィート・シックスティーン」。その前に彼のコメントが流れる。
「昔、ライブ・イベントにオレが出て行くと、会場全体から激しくブーイングされたことがある。それはブルース音楽への、黒人へのあからさまな拒絶だった。そりゃ動揺したよ。そこでオレは、『スウィート・シックスティーン』を歌ったんだ。『歌詞に”意地悪されてもあなたのことを愛し続ける”とある。おれは女のことを考えつづけて歌っているのだが、あの日にはぴったりだった。その詞を歌いながら泣けてきた。そうしたら、なんと終わったときは、客席から喝采されたんだ」
 ブルースを歌うとき、自分が黒人であることを痛感するんだと彼はつづけた。リンカーンセンターで、ただの歌道楽男にしか見えなかったオヤジの哀愁が、ふたたび”温泉満喫”顔で歌う画面からオッ立っていた。
 パンフレットで、この映画の監督アントワン・フークワはこんな言葉をよせている。

彼らを見ていると苦しかったとき、楽しかったとき、音楽でお金が稼げなかったとき、人気のあったときなど、今までに乗り越えていた様々な出来事が見える。そして彼らは今でも歌い、音楽を続けている。本当に多くのことを彼らから得て、この経験が人生を豊かにしてくれたんだ。本当に奇蹟のようなことだ

 ちなみに、「ライトニング・イン・ア・ボトル」とは直訳すれば「瓶の中の稲妻」だけれど、「自家製の安くてきつい酒」をも指すらしい。映画全体の空気は、もちろん後者の言葉がかかえる「行間」こそがふさわしい。