ざんまい京都(3)「よねむら」VS「紫野和久傳」ランチ対決〜<足し算+一部かけ算>VS<引き算>、あなたならどっち?

rosa412005-05-02

 京都在住の友人から勧められた「イル ギオットーネ」は、2泊3日の滞在中、ランチの予約がとれなかった。そう友人にメールすると、「1ヶ月前でもなかなか取れんらしいぞ」と返信。そ、そ、それを最初に教えとけ!。今回は格安チケットが手に入った分、ランチにお金をかけるつもりだった。
 その代わりに、八坂神社近くの「よねむら」1人6000円を予約。最近、銀座にも出店したらしい。フレンチ風の懐石料理だ。翌日の和久傳本店のランチとは対極の料理として選んだ。
 印象に残ったのは、まず、しじみのだしをとった赤出しスープのカモミール風味。このカモミールが曲者で、フレッシュハーブの苦味がまず舌をさす。に、苦い。確か2皿目だった。ひとつのコース料理の中で、序盤からわざとノイズ(マズイもの)を混ぜてくる。ずいぶんな自信だと思った。だが不思議なことに、飲むたびにこの苦味にだんだん慣れてくる。それにも驚いた。
 次に印象に残ったのは、デザート前のお口直し、シャンペンのシャーベットにイチゴのざく切りをのせ、イチゴに黒七味を振ってある。いや、お店の人に確認したわけではない。だが事前にネット検索してて、京都土産で持っていく人が多いとして紹介してあった「祇園 原了郭の黒七味」の映像が頭をよぎった。実際、苦辛かったし。だが面白いのは、シャンペンだって苦いから、全部一緒に食べると、黒七味とシャンペンシャーベットが妙に呼応して、口の中で共鳴する。こういうプロデュース能力、そしてお客に驚きを与えようというサービス精神は素晴らしい。
 それはカモミール仕立ての赤出汁にもつながるセンスだ。ミスマッチなものの共通項を、お客に発見させる。驚かせる。それは文章にも使えるアイデアだと思った。起承転結の流れの中で、わざとノイズみたいな文章をまぜることでアクセントをつける。できれば、その複数のノイズ同士が結果的に共鳴させられたら、それは面白いと思う。ただ、それはけっして簡単なことじゃないけどね。
 しかし、うちの奥さんともお店を出てから話したんだけど、ノイズの混ぜ方は面白いけれど、新鮮でいい素材を集めたら、それはおいしいものができるでしょうよ、という結論に落ち着いた。たとえば、メインで麺に、新鮮なウニとキャビアを載せて食べさせるのなんて、そりゃ美味いに決まってる。新鮮な竹の子のステーキも美味いに決まってる。オバサン・グルメはそれだけでじゅうぶん満足させられる。
 基本は新鮮でいい素材の足し算料理で、一部ミスマッチな素材を合わせる掛け算もあり、という感じだった。
 翌日のランチは、今回一番最初に予約した紫野和久傳。ここのwebは本当にカッコイイから、ぜひチェックしてもらいたい。今回はここの典座(てんぞ)料理が、旅行の目的のひとつだった。1人5000円。
 典座とは、今も昔も、禅寺で出されている料理で、いわゆる精進料理のこと。肉類は一切使わない。だからダシだって、カツオじゃなくて昆布からとるという徹底ぶりだ。永平寺で座禅体験取材した人間としては、あの味のない料理を商売として、どう成立させているのか。そこに興味があった。ただ、典座料理はこの紫野和久傳のみで、他のお店は茶懐石料理を食べさせてくれる。いい値段だけど、新鮮な魚などと京野菜を使った美味しい料理を味わえる。
 結論から書くと、究極の引き算料理。一滴でもいいからお醤油を振って、という言葉を1時間20分ほどの食事時間中に、ぼくは何回か呑み込んだ。山菜の煮合わせは、薄い昆布だしで炊いただけで、山菜の味しかしない。面白かったのは、わらびのえぐみを消すために、灰をまぜた水で煮込むという仕事。素材のえぐみを、灰のえぐみで消した上で、真っ黒なわらびが軽く白ゴマをあえられて出てきた。山菜特有の青くさい甘みが口の中で広がる。素材のエッセンスだけを食べさせるわけだ。
 そのトーンで、時折アクセントみたいに、たとえば、ウドを炭火で焼いて、七味まじりの味噌をつけて食べさせたりする。その隣には、山椒の葉を味噌で閉じ込めた焼き餅が並んでいた。
 他に印象に残ったのは、豆乳ににがりを加えて固め、そこにソラマメを漉したペーストをかけた一品。豆乳のほんのりとした甘みと、新鮮なソラマメの甘みの組み合わせが絶妙で、これはもう5杯ぐらい御代わりしてしまいそうだ。
 後は最後のご飯か。二人分を球形の二合の土鍋で炊いてくれる。この炊き立てご飯が生まれて初めてぐらいの美味さだった。一粒一粒が粒だっていて、じつにほんわかと炊けていた。お漬物の味がすごく濃く感じた。
「あのー、大変失礼な質問かもしれませんが、こういう究極の引き算の味を日々作っていると、たまにモスバーガーとかむちゃ食いしたくなりませんか」
 そんなぼくの愚問に、板前さんは「いやぁ、ハンバーガーは特には・・・」と苦笑する。味覚が影響されるから、朝と昼は濃い味のものは食べないらしい。だが夕食は中華からフレンチまで、いろいろと食べに行くという。京都でお勧めのイタリアンをたずねると、「カノビアーノ」という答えが返ってきた。東京の代官山にある店の姉妹店で京都にもできたらしい。ちなみに、その板前さんも「イル ギオットーネは何度かチャレンジしたんですが、なかなか予約が取れないんですよぉ」とこぼしていた。
 つらつらと書いてきたけれど、対極の二つのお店に行ってみての結論は、「ぼくはやっぱり、安くて美味しい名代おめん銀閣寺本店が一番好きだ。