NHKスペシャル「少年院・教官と少年たちの現場」

rosa412005-05-08

 とてもスリリングな瞬間だった。
「赤ちゃんのかわいい顔が浮かびました。・・・すると、その子を抱いて、父親らしく振舞っている自分の姿が見えてきて・・・、あんなかわいい赤ちゃんを、自分がこの手で殺したことがすごく怖くなって、ここ(少年院)に来て初めて涙がこぼれました」
 丸刈り頭の17.18歳の小柄な少年は、しばらくして、こう言葉をつづけた。
「すると、その赤ちゃんに、自分がずっと見られていると、そう思うようになったんです。だから変なことはできないって。・・・そんなふうに感じられた自分に、こういう言い方も変なんですけど、少しホッとしました」
 同級生の彼女との間にできた赤ちゃんの存在が、周囲に発覚することを恐れ、彼はその命を奪い、少年刑務所にやってきた。だが入所後も、誰とも話さず、好きな工作の時間に、プロ並みの腕前を発揮する以外は、終始、感情をあらわさなかったという。
 だが入所二年目になるのに、罪の意識が彼にはまるで生まれなかったために、赤ちゃんの命日一週間前から、一人部屋に移された。正座をしながら当時のことを思い出し、そのことを日記につづり、その日記をもとに彼は担当教官と対話をかさねていた。そして命日の日に、冒頭の言葉が彼の口から飛び出した。
 あの場面を観て、ヤラセだと思った人もいるだろう。だが、少年は恐怖と向き合わないように、そのときの自分と赤ちゃんにまつわる記憶をずっと封印してきたのだと、ぼくは思った。心とからだを殺して、誰とも話さず、感情も表さずに日々をやり過ごしてきたのだろう。そう、引きこもりの子と似たような形で、そうして彼なりにバランスをとってきた気がする。
 この話には前段がある。なぜ自首したのかと教官から問われた少年は、しばらく沈黙してから、子どもの命を絶った数日後、ふいにその赤ちゃんに名前をつけたのだと明かした。すると父親みたいな感情が芽生えて、自分は悪いことをしたのだと思うようになり、両親に告白したと。
 どちらのエピソードにも、良心と恐怖のめまぐるしい葛藤が感じられる。それは意志の強弱によって、オセロゲームみたいに全面が一気に黒にも白にも豹変してしまうような、心もとないものだったにちがいない。おそらくは赤ちゃんの殺害も、そんな状況でおこったのだろう。
 だが、この事件はどう報道されたのだろうか。だいたい、想像はつく。この少年の残忍さや狂気を思わせるエピソードか、あるいは両親の不和などの話が集められ、あるいは捏造され、少年の人格はかぎりなく黒く塗りつぶされていく。そして彼を凶悪で特殊な人間だと烙印を押して、一丁上がりだ。企業や人間を訳知り顔で「勝ち組」と「負け組」に区分けして、一人小利口ぶるような、あの手口で。
 少年と向き合う側にも、少年を殺人鬼に仕立てる側にも、わたしたち大人がいる。わたしたちの心の中にも、良心と悪意の、怒りと恐怖のめまぐるしい葛藤がある。