森達也著『こころをさなき世界のために』洋泉社新書〜テレビのクオリティと民度は五分五分

 
  オウム真理教のドキュメンタリーで一躍有名になった森さんの新書には、メディアの死角みたいな話があれこれ出てきて面白い。たとえば、テレビは分かりやすさと面白さしか考えない。そこから派生してくる以下の指摘はどうでしょうか。

イラク報道について)こうして戦場は矮小化された形で配信され、世界中のお茶の間に届けられます。アブグレイブの刑務所で捕虜への虐待があったときは、世界的な批判がアメリカに集中しました。あるいは米軍のファルージャ一掃作戦のとき、モスクの中で床に倒れていたイラク人を銃撃した米兵が問題になりました。
(中略)
 動いているものがいれば兵士は撃ちます。当たり前です。怖いんだから。極限状況です。それが戦場です。捕虜は虐待するんです。人間性など保てません。それが戦争です。だからこそ僕らは、この人類史上、最悪な営みに反対せねばならない。ところが、この程度で世界が本当に衝撃を受けたのなら、それは逆に言えば、戦場をその程度にしか認識していないということです。このレベルで僕らはいま、自衛隊イラク派遣に対して賛成とか反対とか、米軍に大義はあったとかなかったとか論じている。

 そりゃそうだねと、これを読んでぼくは思いました。このねじれはなぜ起こったのか。それは現場の音を消して、適当なBGMをつけ、適当なナレーションをつけて、つまりは適度に悲惨な現実を骨抜きにしつつ、戦争映画みたいな刺激的な映像だけを垂れ流すテレビがいるからです。その分かりやすさと適度な刺激という面白さだけで、映像が構成されるから。そういう映像に日本の視聴者が慣らされているからです。
 これはあくまで一例にすぎない。世界の現実を観ているようで、実は適度にリアリティの手足をもがれ、適度に劇化されたまがいものを観せられている。
 そして我らが自衛隊は、自力で防衛できないから、オーストラリア軍に守ってもらっていたりする。その程度の軍事力でいったい何の貢献ができるのでしょうか。そこに投入される税金の費用対効果とてんびんにかけたら、いったい、どのくらいのマイナス効果なんでしょうか。それを、どこのメディアが明らかにしてくれるんでしょうか。
 誰もそんなことを指摘しないし、糾弾するメディアすらない。それがわたしとあなたが暮らしている場所です。森さんの文章を読むと、合わせ鏡みたいに、そんなボケボケ顔の自分がよく見えてきます。