菊池成孔『DEGUSTATION A JAZZ』〜菊池成孔(なるよし)をたどっての千鳥足あれこれ

Degustation a Jazz

Degustation a Jazz

菊池成孔ってサックス・プレーヤーがいてね、最近ジャズ界では注目されてるのよ、すっごく音がカッコイイのよ」
 昨日出かけたピッツェリア「1830」の軒先で大きめのピザを頬ばっていると、隣のテーブルのそんな会話が耳に入った。どうやらプロとアマのミュージシャン友だちのランチらしかった。へぇ〜、業界でも注目されてるんだとおれは思った。昨年、東大で山下洋輔と菊池のセッションをすでに聴きに行っていた自分が、ちょっぴり誇らしかった。
 で、本日、神田での取材をおえて同駅前の書店に立ち寄った。おお、正面玄関近くの新刊コーナーに『希望のニート』が『ジェネレーションX』と並べてドカッとおいてある。さっすがだねぇ〜、東洋経済新報社!と思いつつ、割と広い店内をウロウロしてて、菊池成孔
サイコロジカル・ボディブルース解凍』(白夜書房)発見。「プライド」でのヒョードルノゲイラの戦の観戦記をつまみ読み。
 ヒョードルが進化しすぎてしまい、軽快なステップワークがどうしても可愛く見えて、あの冷酷無比な「氷の拳」のイメージが菊池氏の中でガラガラとくずれ、世紀の一戦を笑いをこらえながら見ている様子が、巧みな筆致で描かれている。うまい!シャープな洞察力とギャグが混ざり合う文章は、さしずめ巧みなサックスのインプロビゼーションみたいだ。
 で無性に、菊池氏のCDを聴きたくなって、帰り道にあるツタヤで借りたのが『DEGUSTATION A JAZZ』。あの綾戸智絵さんを抱える、イーストワークス・エンターティンメントから出ている。短いもので40秒、長いものでも2分半程度の曲が41曲で70分弱の作品集。才気ばしる旋律と、多彩なアレンジの妙が印象的。
 このCDのタイトル自体が、スペイン人天才シェフの革命的フランス料理のスタイルにあやかっているらしく、各曲タイトルも「複数のブレイク・ビーツと電子オルガンによるヒップ・ホップ風、ソプラノサックス添え」「キューバ産テナーサックスと二つのブレイク・ビーツによるロティ・ハバナ葉巻風味」といった調子で、彼の文章のギャグセンスを思い起こさせる。それぞれの曲も、日差しを乱反射させてピカピカ光る、色とりどりのビー玉のコレクションめいている。確かにそれぞれのチューンナップは、鮮やかな料理人の手さばき。でも、まだ、おれの言葉がおっつかない。
 また、菊池のヴォーカルも、女性ばりの『ザ・クリスマス・ソング』や、クールな『ラス・メイヤー、聞いてくれ』と、なかなか聴かせる。吹けて、歌えて、書けてとくりゃ、こりゃ、才能の塊(かたまり)だな。エミネム同様、しばらくこれを聴いて、いくらか言葉にソシャクしてから、もう一度ライブを聴きにいきたい。ちなみに菊池氏のwebサイトはこちらへ。
 彼がDJをつとめるTOKYO FM「WANTED!」(水曜午前3時から5時)も、たまにカセットテープに録音して翌日聴いてるけど、アイドル歌謡から演歌、そして渋めのモダンジャズと、縦横無尽な選曲センスでお気に入り。