深澤直人さんの日常からの発想術(「広告批評」6月号)

rosa412005-06-28

 なんとなく面白いなぁとは思っていた、だけど無印良品の、ヒモで引っ張る式の壁掛けCDプレーヤーが、換気扇というありふれた日常品から着想された商品だったとは知らなかった。プロダクトデザイナー深澤直人という名前を知らない人でも、あのCDプレーヤーや、auのカラフルな携帯電話インフォバー「NISIKIGOI」、あるいは同じauの文字通り石ころみたいな携帯電話「ishicoro」、さらには単一色の大きなドーナツ型加湿器などという商品なら、ああ、知っているというはずだ。
 深澤氏の特集を組んでいた、「広告批評」6月号をひさびさに本屋で立ち読みしていて、この人、スンゲェ〜ッと心の中でうなってしまった。
 扇風機や換気扇とCDプレーヤーのモータは同じもので、スイッチを入れてから回転が安定するまでに、一定の間(ま)が生まれる。あるとき、それに気づいた深澤氏は、換気扇と新たなCDプレーヤーがシンクロしたという。
 だが面白いのは、そこから先。より「間」を大切にするために、ヒモで引っ張る形式の製品を着想し、香港のあるメーカーに製作を依頼。すると、こっちの方が精度がいいからと、当初は短い紐型の製品が試作品としてできあがってきた。
 深澤氏はそれに納得しなかった。ヒモが短いとすぐにスイッチが入ってしまい、肝心の「間」あるいは「余白」が感じられなかったから。彼は秋葉原に出かけて、昔のヒモ・スイッチ式の蛍光灯をわざわざ探してきて、再度、香港のメーカーに試作を依頼したという。どうよ、この執着ぶりは。
 ありふれた換気扇に、CDプレーヤーの新たな派生系を見出す眼ももちろんスゴイ。だが、それ以上に、デジタル製品に「間」あるいは「余白」という、アナログな要素を加えようという着想が素晴らしいとぼくは思う。日常からの発想術について、彼はこう語っている。以下、「思考」を邪魔者扱いしている点が刺激的だ。

普段、人間はほとんど考えずに行動してるんです。だから、自然でいられる。自然でいられるということは、完璧に調和しているということ。その調和を邪魔するのは思考です。思考が介入すると、世界はスムースに行かなくなるから、いったん思考を置いて考えましょうと言ってるだけ。「あなたが無意識に動いているところを僕はよく見てます」って。人が何も考えずに行動しているのを観察して、その結果をプロダクトデザインとしてアウトプットしているんです」
広告批評』6月号 深澤直人インタヴュー「日常の感覚の中にデザインの必然がある」より一部抜粋

広告批評6月号
●右上写真は、リマの海岸ぞいにできたオシャレなショッピング・センター(S・C)。海から吹く風を利用して、このS・C周辺を、有料パラグライダーがお客さんを乗せて、飛び交っていた。日本だったら、まずあり得ないよね。