「勝ち組」という言葉の語源〜斉藤環(たまき)『「負けた」教の信者たち ニート・ひきこもり社会論』(中公新書クラレ)
「負けた」教の信者たち - ニート・ひきこもり社会論 (中公新書ラクレ)
- 作者: 斎藤環
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2005/04/10
- メディア: 新書
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そもそも「勝ち組」という言葉は、第二次大戦直後にブラジル日系人社会に実在した「日本は戦争に勝った」と主張する人々の集団を指す言葉である。要するに「勝った」という確信こそは、情報不足がもたらした集団的な妄想様観念なのである。余談になるが手塚治虫の遺作『グリンゴ』の主人公・日本人(ひもと・ひとし)は、南米のジャングル奥地に「勝ち組」の残党が作った、神社や鳥居のある日本の村落そっくりのコミュニティを発見する。いずれにせよ、「勝ち組」という言葉の原義は「(情報格差によって)勝ったと思い込んだ人々」のことであり、私がこの下品な言葉をあえて使う時は、ほぼこの用法に忠実であることをお断りしておく。
上記書「はじめにーなぜあなたは「負けた」と思い込むのか」より抜粋引用
そして2005年現在、同じ言葉を面白がって使い、読者の不安や恍惚、あるいは議論をあおり、小銭をかせごうとする人たちが再びあらわれている。まるでブラック・ユーモアみたいな状況だよなぁ。
敗戦直後のブラジル日系人社会という、ひじょうに閉じた情報空間で流通した集団妄想的な言葉が、この情報革命とかよばれてる、わたしたちの社会でなぜか市民権をえているという事実がね。