NHKハイビジョン「山田風太郎が見た日本ー未公開日記が語る戦後60年」

あと千回の晩飯 (朝日文庫) 
 夕食をとりながら番組を観てたら、とうとう最後まで観てしまった。作家・山田風太郎さんの作品は、『戦中虫けら日記』以外、一冊も読んだことがない。ただ、以前に朝日新聞で連載されていた「あと千回の晩飯」という連載に、強く心惹かれた。
 近づく死を感じながら、淡々とその日の献立と、あれこれ思うことをつづった文章に、適度に枯れたリリシズムを感じたから。まるで死を友としたかのような、素っ裸の高らかな笑い声が行間にあふれていた。
 今夜の番組でも、肋膜炎にかかって兵役検査に不合格となり、戦後は傍観者として日本の変容を見つめた彼の言葉は、それぞれ興味深かったのだが、もっとも印象に残ったのは、三島由紀夫の割腹自殺の数日後に書かれた日記だった。
 彼は憂国のために死んだのではなく、憂国という舞台をこしらえて自ら命を絶ったのだと断じた後、山田はこう締めくくった。
「彼は才能の老衰を恐れたのだ」
 戦後、忍法帖シリーズで人気作家となり、立派なお屋敷を構えて、社会的には成功の絶頂にのぼりつめてから、創作意欲を失い、「それがどうした?」と一人自問自答をくりかえした彼ならではの洞察力である。あの三島や山田でさえ、幸福の在り処(か)はこうもままならない。ましてや、おまえをや。