NHK−BS「中南米日系人・強制連行の記録」〜繰り返される人間の弱さと強さと差別

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 まるでマルチェロ・マストロヤンニソフィア・ローレンの名作映画『ひまわり』みたいな物語だった。約2時間の「中南米日系人・強制連行の記録」は、第二次大戦中、日系人だというだけで、南米ペルーからアメリカに強制連行され、その後消息をたった祖父の軌跡をたどる孫の女性の軌跡を軸にしたドキュメンタリー。
 彼女は米国の公文書館センターで、「理性的ではない」という不可解な理由で、祖父が米国に強制連行されたこと、そして祖父のいた米国の収容所を探し当てる。米国に住む叔母に、ペルー政府の刑事に、祖父が連行されたときの模様をたずね、さらには日本の研究者に聞き、その祖父が戦争終了後、ペルーの祖母のもとに戻らず、日本で日本女性と再婚していた事実をつきとめる。
 しかし、彼女はそこで、米国の収容所で、多くの日系人がペルーの家族を呼び寄せて、ともに暮らしていたのに、祖父が祖母にあてた手紙で「こちらでともに暮らしたい」と書いたにもかかわらず、五人の娘をかかえて、祖母が米国の収容所行きをためらった事実を知る。
 テレビも彼女も、それを明確には言葉にしなかった。しなかったけれど、そこで二人の間にボタンのかけ違いがあったらしいことは察しがついた。おそらく祖父は、収容所暮らしながら家族水入らずで暮らす周囲を見ながら、妻に裏切られたという想いをかかえて孤独な日々を過ごしていただろうと。それが大戦終了後も、祖母の暮らすペルーに戻らず、日本へ戻った最大の理由だったのだろうと。人はそれほどに弱くて、強い。 
 第二次大戦で、連合国軍に対抗した日本・ドイツ・イタリアの三国同盟。北米はもちろん、中南米で暮らす日系人やドイツ、イタリヤ移民たちは、その国籍ゆえに、当時のアメリカ政府から敵国分子と見なされ、それが中南米で努力して経済力をつけてきた移民勢力を快く思わない現地政府の反感とも一致して、相次いで米国へと強制連行されていたという事実も、番組の中で明らかにされる。
 だが、それはけっして昔話ではない。むしろ連綿と見えないへその緒のように、今を生きる私やあなたとつながっている。一連の無差別テロの標的となった米国や英国で、イスラム圏の人々へのあからさまな敵視、恐怖と憎悪がうずまいているという。
 かつて日本でも、関東大震災時朝鮮半島を占領下においていた東京で、朝鮮人に対するデマが広がり、その虐殺が一般市民の手で行われたという。誰かを抑圧しているという意識は、ちょっとした出来事で恐怖心へと姿を変え、殺人さえおかしかねない。
 携帯電話でテレビが観られるような時代になっても、人間は疑心暗鬼には情けないほど脆く、その不安ゆえに他人を他の人種や民族を憎悪し、差別する。オリンピックでは人種の違いをこえて、アスリートたちに感動し驚嘆するその同じ人たちが。