ベイビー・エゴ、お、恐るべし

 赤ちゃんってスゴイ。男の子の赤ちゃんが泣き出し、取材中の女性が授乳の時間だとおっぱいをあげることになった。当然、ぼくはそれまで正対していた彼女に背を向けた上で、取材をつづけようとした。
 だが、ぼくの質問に彼女が答えてくれていたら、それまで静かだった赤ちゃんが、おっぱいを飲むのを中断して急に泣き始めた。
 直感的に、ぼくは彼の神経を害したんだと思い、黙り込んだ。すると彼も泣き止んだ。「わかりゃいいんだよ」、彼からそう諭された気がした。とりわけ授乳の時間は、彼が母親の愛情と神経を独占する時間で、彼女が他の人間と話しているなんて、断じて許せなかったのだろう。ぼくはそう考えた。まっ、育児体験がないので、ただの錯覚かもしれませんが・・・。とにかくベイビー・エゴ、恐るべし。
 さらに彼女は童謡を歌いながら、赤ちゃんを寝かしつけ始めた。「小さな声でだったら大丈夫ですよ」と彼女がいってくれたので、背を向けたままで取材を再開。気がつくと、おっぱいを飲む姿勢のまま、彼は母親の腕の中でしずかに寝入ったらしい。
 授乳という至福の瞬間に安らかに眠りにつく。それは赤ちゃんの特権で、邪魔するものは何者であろうと、むずかり泣き出して、蹴散らす。いわゆる”天使の寝顔”の、それがもうひとつの顔である。