秋めいた週末の安息感を高めてくれる、アン・サリー『ムーン・ダンス』とブルー・ミッチェル『ブルース・ムーズ』

 せっかくの週末に原稿書き。しかも書き直し作業ということで、滅入りそうな気分を少しでも高めるために、近所のツタヤで、原稿書きがはかどりそうなCD二枚をレンタル。
 まずはアン・サリー『ムーン・ダンス』。ボサノバ・ポップス・日本の懐メロ・サンバと、デビューアルバムで、いきなり古今東西の名曲をカヴァーして、多彩な歌唱力を披露している。ムーン・ダンス
 とりわけ、作詞・西条八十、作曲・服部良一の懐メロ『蘇州夜曲』は、憂いをふくんでしっとりと歌い上げられていて、その優雅なヴォーカルが美しい。それと同時に、西条八十の言葉が五・七調で切りとる儚(はかな)き恋情は、日本人のくせに、ついつい忘れがちな日本語の美しさをじゅうぶん堪能させてくれる。

花を浮かべて 流れる水の
明日のゆくえは 知らねども
今宵うつした 二人の姿
消えてくれるな いつまでも       『蘇州夜曲』より抜粋引用

 もう一枚は、ブルー・ミッチェル『ブルース・ムーズ』ブルース・ムーズ。ジャケット写真がまずカッコイイ!これは週末昼間の、暗い作業を少しでも明るくしてくれそうなものをと選んだが、大正解だった。たとえば、マイルス・デイビスの暗闇を切り裂くような音が際立つ『カインド・オブ・ブルー』とは対極の、涼しい秋風や日差しとからまるように、ほがらかに疾走するトランペットの旋律が心地いい。気分がすぐれぬ仕事始めなどに、シンプルに気持ちを盛り上げてくれそうで、これから重宝しそうな一枚。