灯台下暗し

 好きなことを仕事にしているつもりなのに、恥ずかしながら、時々忘れる。頭の中で「仕事」という言葉の方がふくらんでしまうから。
 NHK金曜夜の「にんげんドキュメント」を観ていて、それに気づかされた。三重県の高校で、家庭でできるシーフード料理の全国大会をめざす、料理学科の二人の女子学生が主人公だった。プロ並みの手つきでブリをさばく高校3年生は、地元の漁師たちや元先輩などに試食してもらいながら、マグロパンの改良を進めていく。
 グッときたのは、ささいな場面だ。夜九時まで教室に残って試行錯誤した後、彼女は黙々と包丁を研ぎ始める。毎日そうやって研いでいるという。研ぎおえると、必ず自分の爪にその刃先を押し当てて、切れ味を確認する。だから両方の親指の爪はボロボロで、それを見たときに、ぼくはシビれた。そこまで好きでたまらないことがあることの輝きが、その好きなことのために四苦八苦できる幸運が、堪らなくまぶしかった。その感動とテメェの情けなさに涙が出た。