イサム・ノグチ展(都現代美術館)(1)〜技巧から素材へ返ること

イサム・ノグチ(上)――宿命の越境者 (講談社文庫) 
 今週末で終わる「イサム・ノグチ」展に出かけた。点数はあまり多くなかったが、個人的にはいろいろ考えること、教えられることもあって良かった。右上の本の愛読者としても、昨年冬、取材のついでに札幌のモエレ沼公園を吹雪の中を出かけて、休園で入れなかった者としても、ノグチのオリジナル作品はきちんと一度観ておきたかった。
 まず印象的だったのは、その作風の変化。ピカソの抽象画を思わせるブロンズの作品群から、アフリカ産の黒花崗岩を素材にした作品群への変容だ。それは素材の変化以上に、ノグチの表現者としての姿勢の変化が大きい。
 ブロンズの作品群では、イメージや技巧といった彼の自我が素材より優先されている。それが黒花崗岩という素材に出会ったことで、明らかに素材により忠実たろうと、自我が適度に抑制された分、作品はより研ぎ澄まされ、多くの余白を持つようになる。その変化がじつに面白い。
 素材に返るということは、その素材に自分が感じた直感や面白さに焦点を絞り込む過程で、それ以外のものをどんどん削り落としていく作業だ。それらの作品群と向き合っていると、書きかけ原稿の削るべき部分がはっきりとぼくの頭に浮かんだ。こういう触発のされ方は楽しい。(つづく)