キエチマウカラコソ

 体を動かすことの快感は、らっきょの皮むきに似ている。
余分なことのあれこれが、らっきょの皮でもむけていく感じで、体や心から少しずつ落ちていく。あの感じがたまらなくイイ。今日もランニング・マシーンで走りながら、そんな心地よさを満喫した。遅い早いは問題じゃない。
 体がしだいに温まってきて、汗がじんわりとにじみ出す。それに応じて、速度を上げていく。今日は時速10キロが一番気持ちよかった。いくらかランナーズ・ハイっぽくもあった。何かを考えたり、思ったりする気はさらさらなくなる。目の前のテレビのある一点に、全身の集中力がぐぐっと収斂されていく。以前、「走ることは座禅に似ている」と書いたことがある。
 たぶん、頭を真っ白にして自分と向き合う感じを、言葉にしたかったのだろう。でも今日感じたこととは、ちょっと違う。大げさに聞こえると、こっ恥ずかしいのだけれど、いのちそのものににじり寄っていく。そんな感じにもっとも近かった。どっからどう見ても、もう疑いようもなく、ああ、おれいま生きてるぅぅと。
 どうせあと30年もしたら消えちまうのに、ご苦労さん。そんなツッコミも聞こえてきそうだけれど、あと30年もしたらキエチマウカラコソ、いま生きていることをムンズとにぎりしめたくなる。