都写真美術館『私のいる場所』展〜みうらじゅんとエゴン・シーレの<明と暗>

 初めてエゴン・シーレの自画像を観たときから彼の絵が好きだ。今も仕事場の机の前に、オレンジ色のガウンを着た廃人のような自画像を一枚かけている。
 最初にその自画像を観たのは、たしか高校時代だ。一見、廃人や病人にさえ見える、その醜悪な自画像の裏側に、「この人は自分のことをもっと好きになりたいんだろうなぁ」という印象をうけた。反省好きな日記愛好家にも似た、強い現状否定の先にある「(ニヒリズムに裏打ちされた)より良い自分への憧れ」とでも言えばいいか。
 今回、『私のいる場所』展で、本業イラストレーター兼作家でもある、みうらじゅんのスナップ写真の数々に苦笑しながら、そのシーレにも似た気配を、それらの裏側にぼくは感じた。たとえばそれは、「ヨーロピアン」という文字とともに、意味不明な矢印が書き添えられた珍妙な看板や、妙に腰を落としお尻を突き出すようにして、カメラで被写体を撮影するオジサンたちだけを切り取る視点だったりする。
 その執拗な笑える場面の収集に、彼のサ―ビス精神だけでなく、「見つけたアイが、どれほど素敵かって、紹介したかったんだ」という彼自身の言葉を重ねてみると、そこに「死ねば終わりなんだよ」という死生観の匂いがする。それほどの執着ぶりなのだ。その死生観にのっとって、「踊る阿呆に、観る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々」の気構えを見せる、48歳の「Stay foolish」ぶりがとてもカッコイイ。一見取るに足りないスナップ写真が、国内外の新進作家たちの作品を集めた写真展で紹介される理由も、おそらくそこにある。
 シーレが<暗>なら、みうらは<明>ということになるが、どちらも同じタイプのニヒリズムの<ネガとポジ>の関係にある。4月23日まで、恵比寿ガーデンプレイス内にて開催中。