「大きくて美しい欲望をきちんと持つ」〜心にひっかかる言葉、心をひっぱる言葉

rosa412006-05-16

 じつは14日に、二つのイベントに出かけた。まずは青山ブックセンター本店での、作家・川上弘美さんと松浦寿輝さんのトークショー。黒の長袖シャツにスカートに黒いソックス姿で登場した川上さんは、韓国女優のチェ・ジウと、竹久夢二美人画モデルを足して二で割ったような印象だった。彼女の小説に登場する、はかなげに見えて実際は強く、あるいは大人びているようで子どもっぽい女性たちともダブって見えた。

書きたいことなんてないですよねぇ。そういうことは、ちょっと書けば済んじゃう。むしろ、私にとっては言葉を書くこと自体がとても重要で、たとえば書くことによって、実際の自分が、自分で考えていたよりダメ人間だったんだとわかったりすることもありますし・・・。そういう言葉と戯れるフェティッシュな喜びの方が大きい

 彼女のそんな言葉がひっかかった。
 同じ日の夕方、新宿・紀伊国屋書店本店で、脳科学者の茂木健一郎さんの講演会へ。直接、茂木さんの話を聴いてみて、その人気ぶりの一端がうかがえた。彼の話はとてもポジティブで、話を聴く人をとても勇敢にするからだ。それは「生涯いじり飽きない、人生のオモチャを持っている人はパワフルで強い」というぼくの人間観と、重なる部分も多かったし。
 そんな彼の話の中で、ぼくが心をひっぱられたのはこんな言葉。

 脳にとっての一番の栄養は偶有性、つまり、どうなるかわかったもんじゃないという状況なんです。そういう状況でこそ、ドパーミンが多く分泌されます。ついつい人は厄介そうな事柄を避けてしまいがちですが、それを克服したときにも同様にドパーミンは大量に出ます。つまり、厄介な状況は大きな快楽を得られるチャンスなんです。

 快楽主義というと悪いイメ―ジがありますが、人間の脳は、どういう欲望を持つことができるかで勝負が決まります。他人には迷惑をかけないという前提で、より大きくて、より美しい欲望をきちんと持てば、その多くはかなりの確率で実現できる。なぜなら、脳は神経回路をその欲望に応じて、ある程度自由につなぎ換えることができるからです。ですから、皆さんも創造的に生きるには、偶有性の中に自ら飛び込むようにしてください。

 講演後の質疑応答の様子から、茂木さんがとても誠実で、どんな人に対しても広い度量で接することができることもわかった。「大きくて、美しい欲望をきちんと持つ」―いい言葉をもらった。