江國香織×古川日出男のリーディング・トークショー〜音読が言葉を解き放つ(青山ブックセンター)

rosa412006-07-08

 会場を後にしてから、むずむずと文章が書きたくなった。音読から見えてくる文体は、とても色っぽかったり、あるいは建設現場ぽくもあって、なにしろとても自由奔放だった。文章を黙読すると、どうしても意味という枠に収まってしまいがちだが、それがひとつの肉体をもって目の前に立ちあらわれてきた。
 書き言葉はどうしても理屈にとらわれる、理屈に卑屈になる。ただ、同じ言葉が人間の声を通して語られると、理屈という檻からはするりっと抜け出し、自在にそこかしこにあふれることができる。みずみずしい生命感をもった別物になる。その感じを目撃できたことはスリリングだった。声がこんなにエロイものだったとはね。
 江國さんの自作の語りは、穏やかな小川のように、あるいは山中の湧き水みたいにあふれていた。それは改行も感じさせないほど滑らかだったけれど、その流れの、あるいはあふれる中にセックスや絆や疎外感が混ざり合い、ぶつかり合いして時折、不協和音を立てる。
 古川さんの自作語りは、ロシアの人形「マトリューシュカ」みたいに言葉の中から違う言葉が現れたり、言葉が言葉によって入れ替えられたりする。あるいは洗濯機みたいにときに反転したり、渦巻いたり、高速脱水モードに切り替わり、言葉はしなりひねりして、ときに水気をしこたま絞りとられたりする。
 どちらの言葉も自在で、いい加減で、刹那的で、それゆえに生きがよかった。