奥田政行(山形県鶴岡市「アル・ケッチァーノ」オーナーシェフ)〜食べるもの・舐めるもの・嗅ぐもの・見るもののすべてを料理に収斂させる人

 その逆三角形の顔は、温厚な蟷螂(かまきり)を彷彿とさせる。見た目だけではない。もう道端の草から、山中の得体の知れないものまで、この人はやたらと口に放り込んでは、この土地の水の味がしますね、とかいいながらニタッと顔をほころばせる。マニアックな匂いがぷんぷんする。
 奥田政行を取り上げた9日(日)のTBS『情熱大陸』で、もっとも印象的だったのは、市場で仕入れてきた魚の胃袋をまず切り開いて調べる場面。この魚は、と奥田はつぶやく。
イワシをよく食べてますねぇ・・・、ムシャムシャ、ああ、だから魚の身も、ほんのりイワシの味がしますよ」
 しびれた。おれ、こういう人、好き。さらに彼は店外に出て、道端で小さな雑草をつまみ上げ、イワシの味がする草ですといい、またニタッ。その名前を取材スタッフがたずねると、名もない草ですと、またニタッ。ブラウン管を眺め、むふふふふふっと笑いつつ、ああ、この人、すっげぇ好きだわ、おれは心の中でそうつぶやいていた。
 その草をバーナーであぶり、カラスミ?(記憶不鮮明、あるいはウニだったかも、とにかくオレンジ色だった)とともに、その魚の身に巻き、オリーブオイルとこだわりの塩だけの味付けで仕上げた。ひと皿には多くても三つの食材しか使わない。それはそれぞれの食材の味をきちんと、食べてくれる人に伝えたいから。四つ以上使うと、それができないという。たしか、”キャンディーズの法則”と勝手に命名していた。彼女たちはハモッても、それぞれが誰の声かきちんと聞こえてくるからと。
 たぶん、奥田さんはキャンディーズのファンなだけで、その法則に科学的な裏づけはない。でも、そこがまたいい(^〜〜^)。食べるもの、舐めるもの、嗅ぐもの、見るもののすべてを彼は料理に、そして人生に収斂させてしまえる。だから温厚な蟷螂顔の彼は、いつも何かいうとニタッと笑わずにはいられない。気がついたら、おれも、彼が笑うタイミングでニタッとさせられていた。ヤ・ラ・レ・タ。