写真展「STYLE355」(渋谷NADARS/SHIBUYA355)〜モノの背中をとらえる視点

 先日、テレビでちらっと観たアーティスト、束芋さん(女性)の作品に目がとまった。やおら、背中のジッパーを下げて、大柄な女性が後姿のまま下着姿になっていく場面だ。その笑ってしまうほど、あけすけな現実(リアリティ)。物事を正面ではなく、背中からとらえようとする彼女の視点が面白い。今月中に、ぜひ品川の原美術館の彼女の個展に行ってみたいと思う。
 写真展「STYLE355」(8月11日まで)に出品した、友人の石下理栄さんの作品にも、同じものを感じる。花を綺麗なものではなく、どこか海底の新たな生物みたいに撮影した写真群がいい。というか、すくなくとも僕はこんな写真を見たことがない。
 数年前の作品では、赤いチューリップを押し花みたいにペシャンコに、しかもどす黒く写した写真に、彼女の独特なセンスを感じてはいた。ただ、ぼくはそれらに彼女自身の社会に対する恨みつらみまで一緒に見えてしまった。その怒りのエネルギーが、恨みつらみの次元をこえて、もっと普遍的な、彼女だけが見せられる世界にまで昇華されつつあることを感じさせる。あとは、ここからどれだけ同じテンションの高さで、作品を展開させていけるか。
 たとえば、対象が花なら、見た目の綺麗さを越えて、その汚さや気味悪さ、不思議さにまで貪(むさぼ)りつけるのか。趣味人と表現者の境目は、そういう物事の「背中」にこそ作品がたどり着けるのか、という一点にある。
個別作品の斬新さと言う点では、同展大賞受賞の木村直也さんよりパフォーマンスは高いとぼくは思う。ただ、6点全体のバランスという点では、石下さんの6点は左側2点がどうも力不足に見えてしまうところか。