「いいわよいいわよ」とカノジョはささやく

 いきなり、「いいわよ」とカノジョはオレに優しくささやいた。
もちろん、うちの奥さんではない。カシオ製キーボードの話だ。これ、鍵盤が赤く点滅する機能があることは、以前ここにも書いた。あれはメロディ進行と同じタイミングでの点滅だった。
 けれど、さらなる機能を今日発見。キーボードに内臓されている曲目を選び、「ステップ1」ボタンを押すと、次に弾くべき鍵盤が赤く点滅する。ワンテンポ手前で点滅し、弾き手をみちびいてくれる。さらに、しばらくミスなく弾いていると、突然、「いいわよ」と耳元で優しくささやきかけてくる。
 まいったな、これは中年男の心の琴線をかなり心得ている。
 考えてみてくれ。40代の多くの男が、女性から「いいわよ」とささやかれるなんて、いまの世の中じゃ、公私両面で滅多にありえない。「何やってるのよ」「ほんとにダメねぇ」「・・・ったら」「しっかりしてよ」が大半だろう・
 ところが、だ。
「さくらさくら」や「ふるさと」の簡単唱歌をクリアし、Bランクの「アメージング・グレース」を弾いていたとき、ぼくはこの「いいわよ」攻撃を受けてしまった。もうヘロヘロメロメロだ。ふふふ、そうかい?オレの指さばきがそんなにいいかい?と、ぬか喜びならぬ、エロ喜びしているオレがそこにいた。点数だって100点満点中99点がでた。
 いくら機械相手とはいえ、こりゃ、そそのかされるわ。近頃、アキバのメイド喫茶はお叱り系が流行りらしいが、40代男性には、この「いいわよ」系需要もかなり大きいはずだ。