森枝卓士編『チーズの文化誌』(河出書房新社)

図説 チーズの文化誌 (ふくろうの本)
 取材の下準備として、最寄の図書館でチーズ関連の本を4冊借りてきた。世界各地のチーズ文化を網羅した一冊が『チーズの文化誌』。初心者には格好の入門書だ。紀元前1万年前、地中海の東部で牛の家畜化が始まり、同7000年前に、メソポタミア文明が羊や山羊を家畜化。さらに馬やトナカイ、ラクダの家畜化へと進み、同5000年前から4000年前に中近東あたりで、家畜の搾乳とミルクの利用が開始されたとある。
「家畜は殺して食べれば終わり。でも乳をしぼって利用すれば家畜は減らず、むしろ増えていく」
 乳文化って、よくよく考えれば、じつにサスティナブル(持続可能)な産業であり、文化でもある。キレイなゴミを作り続けなければいけない資本主義の中では、じつに真っ当で、古くて新しい産業だということがわかる。
 たとえば、インドで「聖なる牛」と考えられるのは、農耕の貴重な労働力であり、その糞(ふん)は家の壁や薪代わりにもなり、おまけにその乳は子どもに飲ませるには栄養価が高く、チーズやバターとして長期保存も可能という多様な利用価値ゆえだろう。