失うことと得ること

 レンタルお姉さんの一人、川上さんから手紙が届いた。作家の瀬戸内寂聴さんが発行している「寂庵だより」の7月号に、彼女のレンタルお姉さんとしての活動が2ページにわたって紹介されている。寂聴さんの大ファンである彼女にとって、これほど嬉しいことはないはずだ。
 その昔、仕事を辞めた彼女が、新たな進路を探っているとき、広島から車で京都の寂庵に寂聴さんの講話を聴きに訪れている。敬愛する作家の生の言葉に、何らかのヒントをもらいたかったからだ。当時のことを考えれば、「寂庵だより」に自分の話が掲載されるなんて、キツネにつままれたような気分だろう。
 前職から収入は半分にダウンしたが、レンタルお姉さんという仕事に巡り会って適性とやりがいを感じ、今度は川上さん自身の本を出版する話まで舞い込んでもいる。
 何かを失うことを、人は極端に恐れる。でも失うことで、何かをつかめる余白が生まれる。それが彼女みたいに新しい進路につながったりする。あるいは憧れの人にグンと近づけたり、夢みたいな話を持ちかけられたりする。
 ぼくの周りの友人たちも、ぼくをふくめて皆、帯に短したすきに長しだ。仕事、家庭、自己実現のすべてが100点満点なんてヤツはいない。どうすれば毎日の生活を楽しめるのか、自分の心をワクワクさせられるのか。その見極めができるかどうかは、それゆえ意外と大きな分岐点になる。