人間国宝の誕生パーティ探訪

 見事だった。
 私たちが差し出した名刺を、すっと胸元から出した白い紙に包むと、再び彼はそれをすっと胸元へもどし、私がどれだけお役に立つかわかりませんが、よろしくお願いしますと、じつに低く頭を下げられた。その低さに、私も慌ててヒョコヒョコと頭を下げた。たぶん、傍目からはこの上なく無作法に映ったはずだ。
 仕方ない。型を持っている人の動きは、その立ち居振る舞いに驚くほど無駄がない。場所は都内のホテル。相手は八○歳をこえる、ある人間国宝である。年齢にそぐわない若々しさだ。
 たぶん、そんな方にインタヴューできる機会など、人生最初で最後だろう。だから24日は話が噛み合おうが、噛み合うまいが思い切ってぶつかりたい。一対一で向き合えば、型の有無はそう関係ないはず。いや、そう信じたい。かつて天才漫才師の故・横山やすしさんにインタヴューしたとき以来の、テンションである。たしか、あのときもまるで噛み合わず、取材後の火照る身体を持て余すように、小雨ふる御堂筋をとぼとぼと歩いたっけ。
 いかんいかん、取材前からそんなマイナス思考では。