ジェフリー・S・ヤング、ウィリアム・L・サイモン『iCON(偶像復活)スィーブ・ジョブズ』〜獰猛な魂の荒くれた轍(わだち)

スティーブ・ジョブズ-偶像復活
 面白かった。すんごい隙間だらけの読書だったが、読み始めるといつもスーッと入っていけるのは、この本のもつ強力なパワーだ。共同執筆で、他の取材スタッフとのチ―ムワ―クが産み落とした作品らしく、100人は裕に超える取材で集めた事実が巧みに構成されている。集積された事実のパワーが、読み手を惹きつけ、引きずり込まずにはおかない。だからレトリックなどさして必要がない。そこはすごく勉強になった。
 ただ、あえて難をいえば、ジョブズその人を凝縮したような場面がないこと。それは欠落ではなく、必要ないと判断したのだろう。適度な距離をとりながら取材者と取材対象者が的確なジャブを打ち合うことで生れ落ちた一冊とでもいうべきものだから。その分、ホントめっちゃくちゃな人だよなぁ〜と感心はするけれど、ジョブズ自身にもう一歩感情移入できるページがない。ジョブズに触れているようで触れさせてもらえてない。そういう意味ではグッとこない。