宇多田ヒカル『ULTRA BLUE』〜見慣れた日常に詩情を打ち立てられる彼女のカッコよさ

ULTRA BLUE
 この人の歌の転調の仕方ってすごい。もう海辺に打ち寄せる波が逆巻いたり、ぶつかり合ったり、跳ねたり、飛び散ったりするみたいに、彼女は歌う。今回のアルバムは、とりわけ旋律をはみ出すような彼女の歌声が耳に残る。

十時のお笑い番組
仕事の疲れ話しても
一人がイヤになるよ
そういうのも大事と思うけど

去年より 面倒くさがりになってるぞ
挑戦者のみ もらえるご褒美
欲しいの

I don't care about anything
ちょっとした遅刻した朝もここから
がんばろうよ
何度でも期待するの
バカみたいなんかじゃない
だからkeep trying

 これは2曲目の「Keep Tryin'」の前半の歌詞。ドラマチックな恋愛や出来事などは何もおこらない、のっぺりとした日常にこそ分け入り、歌声という詩情をもって、一編の優れたポップスに仕上げる。それは登場人物の何気ない一言で、2時間近くの物語を魅入った観客の心を最後にグッとさせる優れた映画にも等しい。