「にいちゃん」と呼ばれて

 たまに思いがけないことがある。
「にいちゃん、速いなぁ。こっちは自転車こいでるのに、追いつかんわ」
 幹線道路ぞいをほっちらえっちら走っていたら、突然、声をかけられた。午後6時すぎだ。さっき抜かしたはずの自転車に乗ったオジサンらしかった。
「あっ、ありがとうございます」
 しかし無精髭を伸ばして、メガネをかけたオレは、どう見てもオッサンやろ。それをお兄ちゃんって・・・。
「がんばってな」
 オジサンは大阪人らしかった。そうやな、でないと声かけへんわな。そんな東京の常識もじゅうぶんに奇妙だ。北海道で一度だけ早朝走ったときは、すれ違う人が皆、会釈したり挨拶してくれたから。
 オジサンに励まされたオレも、単純なので思わず走る速度を上げてしまう。ほめられた以上、おじさんに追いつかれるわけにはいかないし。おかげで疲れた。今日は10分走って、5分歩いて、ふたたび10分走った。ありとアップダウンのあるコースなので、トレーニングには適してる。排ガスをかなり吸い込むデメリットはあるが。その前後にウォーキング10分ずつ。今度は、10分間走をもう1回増やしたい。少しずつ距離を伸ばしていくつもりだ。
 ちなみに、友だち4人で申し込んだ東京マラソンは、一番練習不足だったヤツだけが残り、3人とも落選。神様はなかなか粋なことをする。協議の結果、3月頃の関西のマラソン大会(10キロ)への出場を検討中。職場のマラソンチ―ムで、来月走るヤツもいる。オレも年内に一度都内の大会に出る予定。走るにはちょうどいい季節だし。
帰り際、脳梗塞のリハビリらしく、犬を連れてゆっくりゆっくりと散歩しているオジサンとすれ違った。明日、オレが彼のような状態にならない保証なんてない。もしそうなったら、オレもその身をさらして彼みたいにゆっくりでいいから前進していたい。とりあえず明日は走るつもりだけれど。