とりかわ『粋恭』の「鶏皮」・「せせり」・「豚バラ」の強力クリーンナップ

rosa412006-12-07

 話しながらぽろぽろと涙をこぼす彼女と向き合いながら、オッサンもぽろぽろともらい泣きしながら、メモを取る手は動かしつづけた。人が生と死の狭間で心をゆらし、夢や仕事を失ってもこの人のそばにいたいと切望する瞬間。そのありったけの想いは、聞く者の心をも震わせずにはおかない。これが彼女の自宅ではなくて、どこかの喫茶店だったら別れ話中のカップルと見られたに違いない。
 それだけの信頼を得て、相手と共振できることはインタヴュワー冥利につきる。どくどくと息づく生き物の心臓にじかに触れさせてもらっているような瞬間。かつて多くの本に心躍らせたガキが、本になる前の物語を受けとめる仕事につけている幸福を全身で感じる。聞き終えるとしばらく放心状態に。聞くことは、多少なりとも相手の人生を背負うことでもある。
 それからご主人お勧めの「とりかわ粋恭」へ。写真中央の「せせり(鳥の首肉。1羽から40g程度しかとれず、骨からきれいに取るのが難しいらしい)」の旨味(うまみ)に思わず唸らされる。さらに空きっ腹に、芋焼酎と生キャベツと鶏皮とせせりと豚バラで酔っ払ってしまった。みんなでよく食べよく飲みよく話してよく笑う。それは限りある生命のさえずりでもある。彼女も声をあげて笑っている。この夜のことは忘れない。