意外な掘り出し物〜隔月刊誌『風の旅人』

rosa412006-12-30

 この冬休みは、原稿の修正やゲラ原稿のチェック、新たな原稿書きと地味な作業ばかりなので、27日に一泊した横浜の話で年内は引っ張る(^^)。
 27日に一泊したインタ―コンチの部屋に、『風の旅人』06年6月号が置かれていた。これが失礼ながら意外な掘り出し物で、温めの浴槽につかりながら、ソファに座りながら読みふけった。
 写真は、それに掲載されていたトレント・パークというオーストラリア人写真家の作品。モノクロ写真に清々しいポップな感覚を持ち込んでいて印象深い。
 同誌編集長、佐伯剛氏の桂離宮についての文章は、「桂離宮は、思惟がなければ何ひとつ見ることができない」といったブルーノ・タウトの言葉を巧みに引用しつつ、読む者の興味を掻きたて、その魅力を「ゆかしさ」と結ぶ。
 森達也氏の『現実を直視しない世相』は、当時上映されていた2本のドキュメンタリー映画を取り上げている。2本とも事件の加害者の凶暴さと優しさの両面を描いているらしく、国内のメディアにも観客にも評判が芳しくなかったとした上で、「加害する側の人間らしさを想うことに、今のこの社会が興味を失っている」と書く。
 武田徹氏は『携帯電話の不自由』と題して、ある原稿でドコモのFOMAがつながらない地域があると指摘したら、何の確認もないまま編集部の自主検閲によってそれが削除されていた自身の経験を取り上げている。
「ネットワ―クの外部があたかも存在しないかのように扱われる環境の中に生きていると、外に対する関心、好奇心自体が萎えていく。(中略)自由を夢見て不自由になり、文明的であろうとして実は野蛮になってしまう轍を踏んでいるのではないか」と警鐘を鳴らす。
 他の執筆陣も豪華で読み応えは十分。それは合わせ鏡のように、物欲しげなタイアップ記事ばかりで、こういう書き手の気骨と矜持を感じさせる文章が読みづらくなってきている、「美しい国」のお寒いメディア情況を照らし見せている。