岡本太郎の仕事場〜寒々しくもあり、熱気ほとばしるようでもある
先に書いた岡本太郎記念館で、もっともパワーを感じたのは当時のまま保存されている仕事部屋だ。二階部分を吹き抜けにして広さ30畳ほどか。窓に面した机の上には、絵の具や絵筆や刷毛、飲みかけのウィスキーやバーボンボトルが埃をかぶっている。その右後方のカンバスには絵が立てかけられていて、その近くの床には種々雑多な色が点々と飛び散っている。
強くうねるような彼の画風と、床を彩るさまざまな色の飛沫は、同じストロークから生み出されたもの。もうひとつの「岡本太郎」でもある。さらに部屋の奥には、彼の作品群、あるいは階上の三畳ほどのスペースには本棚が置かれている。
空調の音しかしない主(あるじ)のいない空間は、彼の多くの作品群にも増して、ぼくにはスピリッチュアルに思えた。画壇にまみえず、ここで一人、己の命を燃やしてはそれをカンバスに叩きつけていた場所だ。その場にただただ見入っていると、少し猫背気味で小柄なくせに目だけはギョロギョロした男が立ち現われてくるように思えた。一人ブツブツ言いながら、時に酒をストレートであおり、書籍片手に物思いにふけったかと思うとカンバスと向き合う姿は、その作品群同様に寒々しくもあり、熱気ほとばしるようでもある。
水が高きから低きに流れおちるように、老若男女が三々五々、平日の昼間にこの記念館を訪れるのは、この仕事場や岡本の作品群が今なお放って止まない寒々しさと熱気にに引き寄せられるからだろう。