橋口譲二トークショー(ABCセンター本店)〜矜持の強度のあまりの格差

 恥ずかしくてたまらなくなった、目頭が熱くなるほどだ。
 これほどの羞恥心がぷるぷると震えるのは、いったい、いつ以来だろうか。歌手の矢野顕子さんへの取材時に、ある質問に対してズバッと切り返されて、自分のバカさ加減に堪らなくなったとき以来か。
 橋口さんのトークショーは、既存の3冊の写真集を新装版で出されるのを記念したものだった。「人間を感じてほしい」というキャッチ・コピーに心惹かれた。今、橋口さんが、この世の中に、何を、どう考えていらっしゃるのかにふれたかった。
 そしたら恥ずかしさに気が狂いそうになったのだから、やっぱり行ってよかった。
「ぼくはこの10年あまり、写真集を出していません。じつは3冊分ほど作れる素材はすでにあるんですが、今みたいな世の中では出したくなかったからなんです」
「さまざまな経緯をへて、3冊の写真集の新装版を出そうと決めたとき、そのポスターもインクジェットのデジタル・プリンターじゃなくて、きちんとした印刷にこだわりました。効率一辺倒の世の中で、むしろ手仕事にこそこだわりたかったんです」  
 穏やかな表情と、とつとつとした声で語る橋口さんはカッコよかった。作品を出さないことで時代に抗う。「NO」を突きつけるという表現者としての姿勢。その矜持の強度にぶん殴られたような気持ちにさせられた。
 片や、自分の本を原案とするドラマを観た後、「これほどのドラマを作ってもらって、それでも本が売れないなら、それは世間がアホやということなので、それならそれで全然かまわない」と担当編集者の留守電に吹き込んだ男がいた。
 そいつは、そう啖呵を切ったものの、じつはネット検索でアマゾンや紀伊国屋書店などの動向に一喜一憂を繰り返していた。ダサい、ダサすぎる、たまならく心が卑しすぎる。