NHK課外授業「ようこそ先輩」〜自分が好きな音を大切にする 

 ミュージシャン矢野顕子ファンの一人として、彼女が弱視だったとは知らなかった。その分、彼女は音に敏感になり、ひいては音楽に携わる出発点になる。最近、個人的にアンバランスさや弱点こそ、自分らしさとして磨きをかけるということを考えているから、なおさらグッときたのかもしれない。 少し前の番組だが、課外授業に矢野さんが出られていて、故郷・青森県の小学校で教壇に立たれていた。
「好きな音はなんですか」と聞かれたら、どう答えるだろうか。
 ぼくなら、炊飯ジャーがごはんを炊き上げる音、奥さんが台所でまな板と包丁をカタカタと鳴らす音。朝寝坊した週末、温かい布団の中でゴロゴロして本を読みながら、右に左に寝返りを打つときに掛け布団が立てる音。街路を走りながら、ハァハァという自分の吐息、ドクドクと高鳴る心臓音とか。ああ、いま生きてると思わせてくれる瞬間の音はすべていとおしい。
 けれど、小学生たちの最初の答えは、テレビゲームやテレビの音といったものが多かった。それが矢野さんの授業を通じて、ペットの犬の鳴き声やそよ風が木々の葉を揺らす音とか、生活の中で耳をすますことで聴こえてくる音にかわっていく様子が楽しかった。
 子どもたちの耳から生活の音を奪っているもの、あるいは、生活の音を取り戻させるものについて考えずにはいられない。
 ちなみに、矢野さんが好きな音のひとつとして「汽車の走る音」をあげていた。それは少女時代、青森の実家から東京の親戚宅へ出かけていた思い出があるから。新たな世界へ旅立つ音が、希望や未知なるものとの遭遇とつながっていた。
 好きな音に限らず、好きな色、好きな言葉、好きな光景など。身の回りから好きなものを見つけようとする姿勢の大切さをあらためて思う。